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□WJ
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泪が止まりません。
理由もふがいないばかり。
そこそこ雰囲気が良かったはずの大好きだった男の子に告白して、なんと撃沈しました。

友達にしか見れないと言われ、地味にじんわりと滲んできた泪を見せたくなくて、塗り固めた笑みでその場を去った。


独りになりたくて来たはずの屋上なのに、後から誰か来やがりました。
しかもあたしの大嫌いな、翔陽一の王子様と名高い藤真です。
下の名前は興味ないから知りません。

何かにつけてあたしに絡んでくるこいつは、あたしの天敵です。


泣き顔を一番見られたくない人が来ちゃって(絶対からかわれるに決まってるもん!)、あたしはなるべく静かに身を隠そうとしたんだけど。
「おい」
見つかってしまいました!

かろうじて後ろを向くことに成功したあたしは、なんとか藤真に顔を見せずに済んだ。
「珍しいなお前がこんな所で」
「いいでしょ別に」
こんな時に限ってからんでこないでよ!
早くどっか行かないと絶対ばれちゃいますから!
「生意気なヤツめ」
「……っ、もともと誰にだって生意気よ」

じわり、じわり。
泪がポロポロこぼれて、声が震えるついでに肩も大きく震えてしまった。
「お前……」
藤真の怪訝な声音に、あたしはまたも可愛くない言葉を放った。
「絶対こっち来ないで見ないで!見たらホントに一生絶交で無視する!」
絶交とか小学生以来、使ってない幼稚な言葉。
しかも絶交とか言うほどあたしたち仲良くないからね!


藤真は「ゼッコー上等」とか言いながら、あたしに近づいてきた。
顔は見えないけど、きっとニヤニヤと笑ってるんだろう。


かまわないでよ、と叫ぼうとした瞬間に背中に大きな温かみを感じて、思わずぐっと言葉を飲み込んだ。

「ふじっ……」
「来たけど、顔見てねぇから絶交すんなよ」
背中合わせの格好になったから、藤真の声が身体を通して振動してきた。
「つか絶交とかさせねぇし」
「ワガママ……」
「悪いか?」


悪びれず言い放った藤真がなんだかあったかくて、背中を安心して預けてしまった。
そうしたら今度は安堵の泪で、嗚咽を堪えることになったんだけれど。


「泣くなよ」
「っく……藤真に、は、関係ないっ、でしょっ」
「関係大アリだ」
「何で、よっ」
しゃくり上げた声が情けない。
どうして藤真はいつもみたいに、あたしをからかわないんだろう。
……まあ、泣いてる女子を嘲笑う男子なんて最低極まりないけど。

「何でもだよ」
「いみわかんない……」
「うっせ、ほっとけ」
ほっとけ、なんて藤真からあたしを構ってきたのに。
ホントに独りになりたいのに、何なんだろうこの男。

しばら泣きじゃくって、すっきりしたら藤真に声をかけたくなった。
「……聞かないの、泣いてる理由とか」
「別に」
「……そ」

そういうとこが、女子のハートを射止めちゃうんだ。
普段のぶっきらぼうさからは想像もつかない優しい藤真は、王子様と呼ばれるのも頷けてしまえる気がした。

いいヤツだなぁ、とあったかい気持ちになっていたあたしの腕を、いきなり藤真が掴んで振り向かせた。
「おーおー、ブサイクな泣き顔」
「ちょっと!見ないでって言ったでしょ!」


マジでありえない!
デリカシーなさすぎるこの男!
「途中まで優しいと思ったら、やっぱり藤真は藤真だ!」
「俺は俺に決まってんだろ」

あまりに当たり前すぎることを言われて、嫌味のひとつも返せない。
「もう泣くなよ。つうか、俺以外の男のコトで絶対泣くな」
「はっ?」
何であたしが男のことで泣いてるって知ってるの!?
それにその後の言葉ってどういう意味?

あたしがぐるぐるしてるうちに、藤真に真正面から抱き締められていた。

「ただのダチのくせに、お前のこと泣かせるとかマジで許せねぇんだけど。
つか、お前にちょっかい出すこと自体ムカつく。
お前をいじるのは俺だけでじゅーぶん」
普段より少し饒舌な藤真は、予想外の言葉でどんどんとあたしを驚かせる。
「お前も何であんな奴に無防備な顔見せてんだよ。無邪気に笑いやがって」


俺だけに見せろよ、そんな言葉を発して藤真は黙ってしまった。

「ふ、藤真!意味わかんない……」
「解れよな。こんだけやって通じないとか、鈍いにも程があるだろ」
「藤真、もしかしてあたしのこと……んっ」

あたしが全てを言い切る前に、藤真の整った顔が視界いっぱいに広がってー……。
キス、されてた……。


「そんだけわかってりゃあいいだろ。俺の女になれよ」

ちゃんと告白してほしいとか
俺の女なんて偉そうに言うなとか
いきなりキスしてくるなんて非常識だし
フラれて弱みに付け込むなんて卑怯だと思いながら。

あたしはその強引な命令に頷いてしまったのだった。

(大嫌いだったはずなのに)
(暴君が優しくなってしまうくらい、好きになってくれていたんだね)
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