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□WJ
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あ、雨だ。
授業中に空が崩れ、俺はその変わりざまに見とれていた。
別段、雨が好きなわけじゃないけれど、嫌いでもないなぁ。
そうして思い出すのは愛しい人。


上の階でまじめに授業を受けているかな。
もしかしたら、眠ってしまっているかも。



『雨って気持ち良いよね』
ある日雨のなか飛び出した春は、細かな雫を一身に受け、くるくると回った。
こんなのドラマでしか見たことがないな、と頭の片隅で考えながら、これ以上濡れないようにと春の柔らかな身体を引き寄せた。

幸いそんなにびしょ濡れじゃなかったから、持っていたスポーツタオルで春の頭を覆った。
『ありがと』

頭を軽く拭いてあげた後、髪を手で梳く。
水気をたくさん含んだ髪が、しっとりと指先に感じられる。
これもなかなか気持ち良いな、と何度も梳くと。

『えへへ、嬉しい』
『嬉しい?』
『宗ちゃんに頭撫でてもらうの大好きだから、嬉しいよ』

春の素直な言葉に赤くなった自分の頬を隠して、愛しさのあまり抱き締めた。

『……じゃあ、抱き締められるのは?』
『もっと好き』

俺も好きだよ、っていろん想いをこめて告げた。


大切な君も、雨を見て俺を思い出してくれれば良い。
今度は俺も雨のなか飛び出してみようか。


そう思いついたらくすぐったくなって、今すぐ君に会いたくなった。






退屈なばかりの歴史の授業を受けていたら、湿った空気が教室にやってきた。
雨かなと思って空を見上げたら、すぐに滴がパラついてきた。

ああ、だから今日は寝癖がなかなか直らなかったんだ。
妙な納得をしながら、まだハネている前髪を触る。


手ごわい寝癖は雨の日にはさらに強敵になるけれど、実は雨が好きだったりする。
子供のとき、台風の日に外に出てみたら存外さっぱりして、全身を包む雨が気持ち良かったからだと思う。

どしゃ降りもなかなかおもしろいんだけど、このくらいの霧雨が好きだ。


雨が降ると、恋しくなる人がいる。
本当は雨がふらなくたって恋しいんだけれど。

『また濡れてる』
宗ちゃんはあたしの奇行に奇異の目を向けずに、ただ心配するような言葉をくれる。
『えへへ』
『えへへ、じゃないよ。春が風邪引いたら、俺が気が気じゃなくなる』
『うん、ごめんね。ありがと』

不機嫌そうな顔の宗ちゃんに、めいっぱいの笑顔を向ける。
そうすれば宗ちゃんも、きれいでやさしい笑顔をくれるんだ。

そのあとはお決まりのように、宗ちゃんに身体を拭かれた。
こうして甘えたいから、あたしは雨のなかに飛び込んでいくのかもしれない。



ああ、会いたいなぁ。
下の階で授業を受けていることを知りながら、今すぐ会いに来てほしくなる。

雨の日でも、あたしを抱き締める宗ちゃんの肌はさらりと気持ち良い。
できればずっと抱き締めていてほしいなってくらい。


うとうととする意識の中で、宗ちゃんの夢がみたいと思った。
きっと夢のなかでも、宗ちゃんはあたしに微笑みかけてくれるだろうから。

(ゆめのなかでもあいしてるといって)
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