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平和な湘北バスケ部の休憩時間。
突如不穏な影が現れた。

「寿〜〜っ!!」
怒りを心頭あらわに駆けてきた少女が、どすんっと三井に体当たりをかました。

「っ……!」
どうにか堪えて倒れはしなかったものの、みぞおち辺りに入ったらしいボディーブローは三井の眉をひそめさせるのにあまりに十分だった。


「……んだよ」
「んだよ、じゃないっ!!あんたねっ……!!」

バンッと近くにあった机を叩くと、上に置いてあった鉛筆やら何やらが音を立てて落ちた。

ああごめんね、彩子ちゃん。
でも全ての原因はこの俺様何様三井寿にあるの。
だから寿を恨んでねと思いながら、あたしは部室のロッカーから持ってきた寿の携帯をエビ反りにしてやった。

周りに居るみんなはボーゼンと(あの赤木くんまでびっくりしてたわよ)あたしの行動を見守るだけ。

「あたし、あんたと付き合う時言ったよね!?ぜっっったい浮気は許さないって!」
無表情に片眉をあげた寿は、もうおまえなんかに興味はないぜ、みたいな態度だ。


「……言い訳もないの?」
休憩時間とはいえ非常識だと十分に理解しながら、あんたを困らせたくてこんな時間に乱入した。
携帯も壊して、かなりうざったい女。

ぐっと拳を握り締めて、寿からの言葉を待つ。
なのに、しんとした体育館に寿の声はあがらない。
「……もういい。わかった」
みんなあたしの一挙手一投足に注目している。


「……桜木くん」
「はい?」
あたしが1年生の桜木くんを呼ぶと、なぜ俺が?と疑問符を散らしながら、あたしに従ってこっちに来た。
「あたし、桜木くんと付き合う!」
その途端、周りが一斉に驚いた声をあげた。
一番驚いていたのは桜木くんで、目をまん丸にして顔なんか真っ赤になっちゃってる。
こういうとこ、1年生は可愛いなぁ。

「ね、桜木くん。いいよね?」
「え、あ、あの……」
真っ赤になりながらオロオロとみんなの表情を窺う。

「だって寿なんかより、若くてかっこいい桜木くんの方が断然いいもんね!将来有望株なんでしょ?桜木くんって」
「ユーボーカブ?……フハハ、そうですとも春サン!!この天才にかかればミッチーなんぞ敵じゃないっスよ!」
「そうだよね!浮気もしなさそうだし、いざという時も守ってくれそう!」
よろしくね、と握手した。
「じゃ、決まりね!」

少なからずいやそうな顔をした寿を無視して、背の高い桜木くんの肩に手を乗せて、そこに力をかけて顔を近づかせた。
そうして、桜木くんの頬に軽くキスをした。

でもみんなにはきっとちゃんと唇にしたように見えるだろう。
桜木くんがもしファーストキスだったら可哀想だもんね。

さっきの数倍は驚いたようにみんながざわざわと静かに騒ぎ出す。
桜木くんなんか魂が抜けちゃったみたいにぽわぁんってなっちゃってる。

時計を見るといつもの部活を始める時間が迫ってきたみたいで、あたしは邪魔にならないように帰ると一言告げる。
「じゃ、桜木くん。今日から一緒に帰ろうね!みんなも突然お邪魔してすみませんでした!」
ぺこっと頭を下げて帰ろうとすると、
「おい春」
不遜な態度の寿があたしの名を呼び、あたしはくるりと振り替える。
「何?なんか用」
わざと冷たく聞くと寿はいらついたようにあたしの腕を取る。
少し痛みを感じたけど無言でにらみ返す。

「離してよ」
「俺じゃなきゃ満足できねぇだろ?」
「どうー……」
どうかしらと反論してやろうとした唇は、しかしその前に寿のそれによって塞がれた。
いつものように生ぬるい舌があたしのそれに絡まって、口内だけで卑猥な音を立てる。
弱い粘膜を強引になぶられて、思考がぐるぐると渦巻く。

「ふっ……」
多分みんなに見られてるのに、あたしは寿の強引な感触に精一杯だった。
こんなに濃いキスを教えたのも寿の所為だ。

だから、あたしが寿から離れられないのは当たり前で。
「わかったか?」
俺から逃げられないことー……。
目でそう語られたら、あたしはもう見抜かれたも同然だ。

「…バカ、もう浮気しないでよっ」
潤んでしまう目を隠すためにユニフォームに顔を押しつける。


ああ、あたしってやっぱり幸せ者かも…。

>>>
いろいろすみません(笑)
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