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はぁ……。
口からこぼれるため息は、もう何度も繰り返されてる。
彼のことを考えるとき、胸が苦しくなって、気付いてほしくて近寄りたくて、でもできなくてため息。
見つめるだけで、考えるだけできゅうっと心臓が締め付けられる。
恋は病というけれど、薬で治る病の方が数十倍ましだ。
この胸の痛みの治療法はないんだから。
授業中、気が付けば彼を見つめている。
さらさらのきれいな髪に、色白で端整な顔。
睫毛だって女の子も悔しくなるほど長い。
あんなに細くて大丈夫なのかしら?
転んだらポキッと折れてしまいそうだな、なんて考えた。
よく窓の外を眺めている夏目くんは、今日も例に漏れずぼんやり頬杖をついていた。
今、夏目くんは何を考えているんだろう。
普段からアンニュイな雰囲気を醸し出している夏目くんも、今のあたしのように誰かに恋焦がれているんだろうか。
1組のユウコちゃんかな?
つやつやの長い黒髪を持つ彼女は、いつも穏やかに微笑んでいるから、夏目くんにはかなりお似合いだと思う。
あっ、それとも4組のマミちゃん?
おっぱい大きくてきれいな足してるもんね。
夏目くんだって男子なんだから、女子の胸に興味あるよね?
はぁ、とまた今度は自分自身にため息。
魅力のかけらもないあたしは、夏目くんの意識に一度だってのぼったことはないんだろう。
ああ、夏目くんが見つめている空になっちゃいたいな。
そうしたら、毎日ずっと見つめてもらえるでしょう?
考えすぎて重くなった頭は、重力によって俯いてしまう。
目をつむって、もう眠ってしまおう、と机に突っ伏した。
はぁ、とため息がこぼれた。
先生が教科書を朗読するのを意識の端に留めて、ぼんやり空を眺めていた。
彼女のことを考えると、恥ずかしさと同時に寂しさと諦めを覚える。
笑顔が印象的な日高さんは、友達がたくさんいていつも楽しそうだ。
いつもあんなに嬉しそうに笑う人は、俺には印象的だった。
あんなふうに笑ってみたい、そんな羨望が生まれたのがきっかけだった。
日高さんが笑わないときはいつなんだろうと、密かに観察していたら、いつのまにかこの想いが暴走してしまったらしい。
日高さんを見るだけで速くなる鼓動、血が上る頬。
だけどその度、俺なんかと思ってしまう。
妖が見えるなんて男、気持ち悪いだろう。
日高さんだって俺を嘘つきだと思うはずだ。
もし話すことができたとしても、その事実を知れば普通に接してもらえなくなるだろう。
せっかくのきれいな笑顔を、俺なんかのせいで歪ませたくはない。
それに人間が苦手なのも、あまりよく思われないんじゃないだろうか。
彼女は今、何を考えているんだろう?
人の考えていることなんて人一倍わからないのに、知りたいと願う。
きっと、日高さんは俺を話したことのないクラスメイトとしか思ってない。
暗い思考に辟易しつつ、こっそりと斜め後ろの日高さんの様子をうかがう。
(気付かれずに見ることももう慣れてしまった)
机に突っ伏した日高さんの姿に、なんだか気が抜けた。
日高さんの太陽のような笑顔を見たかったけれど、そうしたら俺の心臓はまた性懲りもなく暴れだすから。
今はこの心地よい空間をたゆたっていたい。
またぼんやりと空を見上げる俺は、空のきれいさに気付かなかった。
(片想いと片想いはいつか)