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「カルピスになりたいなぁ」
俺の部屋で二人で宿題を片付けていると、いきなり春がそんなことを言った。
「宗ちゃんとカルピスになりたい」
勉強嫌いの春がついに壊れたんだろうか?
唐突かつ脈絡のない発言に俺はただ首を傾げるばかり。
「春?起きてる?」
ひらひらと目の前で手を振ってやると、ぱちりとひとつふたつ瞬きをした春と目が合った。
「おはよ」
「あたし寝てた?」
「何か寝言いってた」
「な、なんて?」
ちょっと焦り気味な顔も可愛いなあ。
「俺とカルピスになりたいって」
「えっ!?あ、あはは、それは変な寝言だねぇ」
「可愛かったよ?」
おもしろいくらいに顔がゆでダコみたいになった春は、恥ずかしそうに目を伏せた。
その後はまたうつらうつらする春をどうにか家まで送ったんだけど。
カルピスになりたいっていうのが気になって気になって、次の日の部活の休憩時間、信長に「カルピスになりたい」の意味を聞いた。
「カルピスってどうやってなるか知ってる?」
「じ、神さんどうしたんスか!人はカルピスにはなれませんよ!」
意外に信長がまともな返事をしてきてちょっとむかついた。
(信長だけにはバカにされたくなかったなぁ)
でも信長が馬鹿みたいに大きい声で言ったからよかった。
ドリンクを持ってきてくれた1年のマネージャーが話に乗ってきたからだ。
「神先輩、カルピスになりたいんですか?」
「あぁ、えーと。どういう意味かわかる?」
これを本気で聞いてると思われるのも嫌だけど仕方ない。
「いま海南で流行ってるんですよ、こうぎゅーってするの」
CMでこうやってぎゅってやってるじゃないですか。
そう言って、もう一人のマネージャーと抱き締め合ってCMを再現してくれた。
「やりすぎてすごい苦しいんですけどね」
あはは、と朗らかに笑うマネージャー。
俺とカルピスになりたいというのはつまり……。
あまりに可愛らしい春の愛情表現に、俺は堪え切れず顔を真っ赤にしてしまった。
「神さん?顔赤いっスよ、どうしたんですか?」
顔を覗き込んでくる信長を気にせず、俺はただただ嬉しさに口元を綻ばせていた。
(ねぇ春、俺たちカルピスになろっか)
(えっ?えっ?……えーっ!)
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神さんに抱き締められたいお年頃ですよ。
カルピスになりたいなぁ(笑)