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年越しも迫った12月31日、春はデート中にこんなことを言ってきた。
「ねーねー宗ちゃん、今日からうちにおいでよ」
「えぇ?いいよ、春の家は毎年家族帰ってくるんだからさ」
「でもそうしたら、宗ちゃん1人で年越し迎えちゃうじゃん」

そう、家族はみんな部活のある俺を残してハワイで年越しをするべく昨日からハワイに旅立った。
母同士の仲もよくてお隣さんの春は、もちろんそれを知っていたから俺に声を掛けてくれたんだろう。

「お母さんも宗ちゃん連れて来なって言ってるし」
「それより春がうち来なよ。そっちの方が楽」
「遠慮なんかしなくったっていいのに」

ぷぅと膨らんだ頬を指でつつくと、やめてよーと笑われた。
「遠慮じゃなくて、春と二人で年越したいだけ」
その瞬間まで楽しげに笑っていたのに、いきなり顔を真っ赤にした。

「宗ちゃんって何でそんな恥ずかしい事を臆面もなく言えるの……?」
「本心だからね。春は嫌?」
答えなんかわかってるけど、不安げに訊ねてみた。
ぶんぶんと勢いよく首を横に振る。


「でもなんか、お泊まりなんて初めてだから緊張するね」
「誰も居ないから大丈夫だよ」
「うん!じゃあ全部済ませてからいくね。夕飯くらいは食べていってよ」

大晦日の夕飯はちょっと豪華なお鍋なんだよ!
春はそう言って繋いでない手を俺の腕に伸ばした。


「そうと決まったら帰ってご飯の手伝いしなきゃね!あ、お母さんに買い出し頼まれてたんだった」
「じゃあ近くのスーパーで買おうか」
「今日は人数多いからおかず争奪戦になっちゃうねぇ」
そうして買い物を済ませてから春の家にお邪魔した。
春には2人のお姉さんがいて、二人とも結婚して子供も居る。
大騒ぎの居間で春のお父さんとお姉さんの旦那さんたちが、コタツでみかんを食べていた。

「ただーいまー。買ってきたよ」
「お帰りー、あら宗一郎くんいらっしゃい」
「お邪魔します」
お姉さんたちからも久しぶりだねーなんて言われつつ、スーパーの袋を机に置いた。

「ほんっと男ってのは動かないから困るわよねぇ」
「野菜切ったよー」
「もう煮ちゃっていいでしょ」

この雰囲気に圧倒されて立ち尽くしていると、春が苦笑いで
「宗ちゃんもあっちで座ってていいよ」
と、男集団を指した。

お隣さんとはいえ、彼女のお父さんやらお姉さんの旦那さんたちと一緒に座る勇気はない。


「俺で良かったら手伝うよ」
「いいのよ、宗一郎くんはお客さんなんだから」
「いえ、じっとしてるのって苦手なんで」
宗一郎くんを見習って欲しいわよねぇ、と大きな声で言われてしまうと、男集団に聞かれてないかひやひやする。


結婚したら旦那はこんな風に肩身の狭い思いをするんだろうなぁ。
手伝えば足手まとい扱いされ、黙ってれば無能扱いだ。

それでも些細な手伝いでもできたら嬉しいというと、上のお姉さんが俺たちをからかった。
「宗一郎くんいい旦那になるわねぇ。あんたら早く結婚しちゃいなさいよ」
「えっ、」
「ちょっとお姉ちゃん!」
春の制止も聞かず、お姉さんたちとお母さんはこの話題でおおいに盛り上がった。
「そうよねぇ、宗一郎くんだったら小さな時から春を知ってるから、もう幻滅されないだろうし」
「ちょっとお母さんそれどういう意味!?」
「春にはもったいない旦那だと思うけど」
「勝手なこと言わないでよー!」

ぷりぷり怒りながらも春もまんざらじゃないみたいだ。
俺も嬉しいけど、お父さんの心境が気になって仕方がない。


「宗ちゃんごめんね、みんな勝手に……」
「いや、平気」
照れている春をもっと照れさせたくてそっと耳打ちをした。

「もう家族公認だから、俺も安心して春をお嫁さんに貰えるね」
「なっ……!」
春は耳や首筋まで赤く染めながら口をパクパクした。


可愛いなぁほんと。
春の反応はいつも可愛いらしいから、つい何度もからかうように言ってしまう。
「そ、宗ちゃんてばこんなみんながいるところで……」
「ほら、予約は早めにしなきゃだからさ」
「宗ちゃんにしか売れないよっ」


恥ずかしいのか、春は机の上にあったお皿とふきんを俺に渡した。
「これでコタツ拭いて、お皿配ってください!」
俺は未来の親戚のためにコタツを拭いて、お皿を配った。


そうしてる間にも鍋ができあがったようで、俺が鍋をコタツまで運ぶ。
たくさんの具が入った鍋は美味しくて、ついたくさん食べてしまった。
2時間ほどそこでのんびりした後、俺と春で俺の家に帰った。
自分の家でお風呂に入ったから、春は今はパジャマだ。
シンプルなデザインと暖色系の配色が春にとても合っている。

「はい、湯冷めしないように俺の上掛け着て」
「わ、相変わらずおっきいなぁ」
「バスケットマンだからね」
俺のものを羽織る春も可愛いなぁと観察していると、春が入浴を促す。
それに従ってシャワーを浴びて出てくると、春はテレビの特番を見ていた。


「春、なんか飲む?」
「んーん、平気」
髪を乾かしてから春の横に座ると、俺の股を割って春がそこに座った。

「宗ちゃんシャンプーのいい匂いするね」
「春もいい匂い」
「高いシャンプー使ってるんだよ」
いつもさらさらの髪はまだ少しだけ湿っていたけど、触りごこちはよかった。
腕を回して春を包むと、胸に寄り掛かられた。

「宗ちゃんあったかくてきもちい……」
顔を上に向けたまま目を瞑る春の顔を見てしまって、ほとばしる感情をどうにかやり過ごした。


「ねぇ宗ちゃん、さっき言ったこと嘘じゃないよね?」
「さっき言ったこと?」
「その……予約ってヤツ」
少し赤みを帯びた頬を撫でて、くすりと笑みを零した。

「春がいいならすぐにでもお買い上げしたいけど、まだ予約で」
悪戯の意をこめて囁くと、ぱちりと目を開けて俺を見た。

「キャンセルの予定があるから?」
「俺がプロのバスケットプレイヤーになって、ちゃんと春と幸せになれる自信がついたら改めてお買い上げするよ」
だから勝手に予約変更するなと注意すれば、ばかと言われた。

「万が一宗ちゃんがプロになれなくたって、宗ちゃんとなら幸せなんだから」
「うん、今も幸せ?」
「今年一番幸せかも」

プロポーズみたいだもんね、と春がはにかむ。
「みたい」はいらないよ、春。

少し強引に身体を横に倒すと、俺に抱き締められた春も同じように横になった。


「宗ちゃん寒くない?」
「春があったかいから平気」
「ふふ、湯たんぽみたい?」
「湯たんぽより気持ちいい」
「宗ちゃんは毛布みたいだね」
「春専用の毛布だよ」
「ありがと、あったかい」

部屋には暖房も入っているから、触れていない部分も暖かかった。
抱き締めた身体の心地よさにうとうとしていたら、春の小さな寝息が聞こえた。


『さぁ!年越しまでついに30秒を切りました!』
テレビでアナウンサーが嬉しそうにレポートしている。

『5、4、3……』
みんなのカウントダウンの賑やかな声が聞こえた。
ついであけましておめでとうございます、とみんな挨拶しあってる。

年が明けたなんて身を以て感じてはいないけれど。

「明けましておめでとう、春。おやすみ」
あどけない横顔に優しいキスを送りながら。


今年も君とたくさん過ごせますように。


(日常みたいな年越しも君とならすばらしい)
(かくごしておいて、かならずさらいにくるから)

>>>
またもやベタなお話に。
ほのぼのがにぎやかになってしまいました。
とにかくいちゃいちゃさせたかった。

明けましておめでとうございます!
今年もよろしくお願いします!
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