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□WJ
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きれいだな。

彼を見るとそんな感想しか浮かんでこない。
色素の薄い髪だとか、透き通る白い肌だとか。
落ち着いた声を聞いてあたしはほぅとため息を吐く。

彼、夏目貴志くんはいつもひとりでいる。
たまにクラスの子と話しているけど。
夏目くんがこの学校に転入してきてから、あたしはよく夏目くんを観察するようになった。
まあ軽いひとめ惚れってやつね。

だからといって、夏目くんに積極的に話し掛けようとしたことはない。
前に一度だけ、教科の係でノートを回収しなくちゃならない時があった。
その時に夏目くんに話し掛けて以来、話したことはない。
それでもその思い出は美化され、あたしの心にしまったままだ。
だから別にどうしようとも思わなかった。
同じ空間にいるだけでいい、本気でそう思っている。
だけど乙女心は複雑なもので(いや、案外単純なのかも)、こうして夏目くんの後ろの席だというのをいいことにまじまじと彼を観察している。

たまにプリントが配られる時に夏目くんはちゃんと後ろを向いて「はい」と手に渡してくれる。
そんな細かい優しさも持ち合わせているのかと驚いたこともある。
ぼーっと夏目くんの背中を見つめていると、不意にその背中がみじろいでこっちを向いた。

「はい」
「あっ……」
ぼけっとしていたら切れ長の瞳と視線が絡んで、あたしはかなり動揺した。
その動揺は身体にも反応して、せっかくもらったプリントを落としてしまった。
拾おうと指を伸ばすと、あたしより白くてきれいな細い指がそれを持ち上げた。

「ごめん、ちゃんと渡せなかった」
「あっ、ううん!あたしこそちゃんと見てなかったから……あ、ありがとう」
「どういたしまして」
バクバク鳴る心臓、耳まで真っ赤な顔。
あまりの緊張に視界が潤んだ。
夏目くんの動きが瞼の裏で何度もスロー再生されて、息苦しくなる。

あのきれいな瞳に自分が映った、ただそれだけのことが嬉しくて恥ずかしい。
あたしは浅い呼吸をくりかえした。


夏目くんのことが、もっと気になってしまった。

(もう一方通行の視線じゃ物足りないかもしれないの)


>>>
With me, with me, with me!より『08. 視線』

『揺らぎ』様より拝借。
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