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今日も船は順調に帆をなびかせている。
甲板からは騒がしい声にまざって可愛い悲鳴。
「きゃあー!やめてーっ」
きゃははと笑いながらルフィにくすぐられている。
「参ったかハル!」
「ごめんごめん!わかったよー、やるから!」

きらきらと笑顔を振りまいて、野郎たちを魅了する。
どうやらかくれんぼを始めたようで、じゃんけんをしてウソップが負けて鬼になっていた。
「逃げるぞ、ハル!」
「うん!」

オレはあっちに逃げるから、ハルはそっち逃げろ!
そんなめちゃくちゃな命令にも、うん!と返事をしている。
どうやら仲間に入るときにルフィが言った冗談(ルフィにとっては本気だが)を真に受けているらしい。
それは船長に何でも従え!という理不尽な命令だったのだが。
しかしハルちゃんは二つ返事でそれを了承した。
それからはみんなが従わなくてもいいと言ってるのに、わかったと言って結局のほほんと従ってる。


「もーいーかーい!」
「いいぞー!」
ウソップのデカイ声にルフィが応えて、キョロキョロと探し始めた。
ここからだと全部が見えて面白い。
ハルちゃんはうろうろしていると思ったら、こっちまで上ってきた。

「あ、サンジくん!何してるの?」
「いやぁ、なんとなくボーッとしてるだけ」
「じゃあサンジくんもしよ、かくれんぼ!」
「オレは……」
丁重にお断りしようとして(だってオレがかくれんぼなんて柄じゃないにもほどがある)、しかしその言葉はダダダッという音に遮られた。

「ウソップだ!」
息だけの声でそう告げたハルちゃんは、近くの物陰にオレを引っ張っていって隠れた。
「あれー?おっかしーなぁ?ハルの声がしたと思ったんだけどな……」
ウソップのひとりごとも頭に入らなかった。

だって、密着しているんだ。
オレと、ハルちゃんの身体がこんなにもみくちゃになってる。
向かい合って抱き合っているような格好だから、ハルちゃんの息が耳にダイレクトに伝わる。
このまま見つかったら違う意味で危ない。

「ハルちゃ……」
「動いちゃダメっ!」
現状打開を試みても、ぴしゃりと却下された。
……ハルちゃんはこの状況をきちんと理解してるんだろうか。

ハルちゃんももう立派なレディだし、嫌がられてないってことは合意ってことか?
いやいや、合意ってお前。
合意も何もオレとハルちゃんは恋人じゃないんだぜ?
しかもオレはハルちゃんのことどうとも思ってねえ。
けど……

「ハルちゃん」

何でかオレの心臓はバクバク鳴ってんだよ。
ついでに期待しちまってる。
オレの首をくすぐる長くきれいな髪。
甘い吐息がこぼれる小さな唇。
見透かされちまいそうな大きな黒い瞳。
丸みを帯びた女の子らしい身体。
オレの胸板あたりに当たる柔らかな感触……。

あぁやられちまった、完全ノックアウトだぜ。
「ハルちゃん……」
お得意の甘ったるい声で名前を囁く。
頬にやさしく手を添えると、アーモンドアイがぱちくりとオレを見つめた。
君の瞳に映るオレもなかなかだぜ。
「オレ……」
「あ、ウソップいなくなったみたい!」
にこっと笑って離れようとしたハルちゃんの腕を思わずつかむ。

「サンジくん?」
「あ、えーと」
オレの奇行を不思議がるハルちゃんを見やる。
「悪い、何でもない」
パッと名残惜しく離すと、ハルちゃんは何も気にせずに起きて伸びをした。

「楽しかったね!」
「あぁ……オレはアフタヌーンティーの準備をするから、ハルちゃん頑張って」
そんな逃げ口上を使って変に見えないようにそこから離れた。
「サンジくん、また一緒に隠れようね!」
無邪気に笑顔を振りまくハルちゃんに本気でくらくらしつつ、俺は甘い甘い香りの焼き菓子を作りにキッチンへと向かったのだった。

(我慢の限界なんて、すぐに訪れた)


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With me, with me, with me!より『05. Standing』

『揺らぎ』様より拝借。
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