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春のクチグセ。
「洋平はあたしより花道を愛しちゃってるもんね〜」

言葉通り俺が春より花道を愛しているわけじゃない。
誰より大事な親友だし、春はちゃんと恋人だ。


春は俺が花道たちとの約束を優先させる度にこう言う。
まあ、本心なんかじゃねぇだろうけど。
デートの約束を取り付けようとしてもバスケの試合があったりして、結局バスケ観戦がデートになる時がしょっちゅうだ。
俺が花道たちを大切に思ってるのを知ってて言われるから、返事も曖昧になってしまい、俺は苦笑を返すしかできない。

春と俺らは中学時代からつるんでる。
喧嘩ばっかしてる俺らを恐がりもせず、今まで付き合ってきてくれた優しいやつだ。


「よーおーへーっ!」
「いてっ」
会うなりバシっと背中を叩かれた。
痛いという割に痛くないんだけど、思わず声が出てしまう。
「会うたび毎回毎回叩くなよ」
「習慣みたいでしないと落ち着かなくなった」
「はは、なんだそりゃ」
まあ突然止められても、こっちも何かあったのかと思っちまうけどな。


「あ、洋平。今週はバスケ部は合宿だから、試合ないよね?あたし前からー……」
「あー悪い、花道は単独で体育館合宿なんだよ。俺らがビデオ撮影と見張り係なの」

あ。
そう言ってから、春は行きたいところがあったのかと気付く。
ちらりと様子をうかがうと、春はそっかぁ、といつものように笑った。
「行きたいところでもあったか?」
「んーん。花道親衛隊の洋平は花道がいなかったら何するのかと思ってね」
そうやって強がるけど、俺は気付いてしまった。


「しょうがないよね。二人といない親友の一大事だし!」
ムリに笑った顔が強ばっていて、目も何だか潤んでいる気がした。
傷つけてしまったのかもしれない。

もしかしたらずっと前から、春はこの表情を隠していただけなのかもしれない。


俺が気付いてることも知らず、春はペラペラと口を回している。


そしていつものクチグセが飛び出した。
「洋平はあたしより花道を愛しちゃってるもんね〜」

いつも言われている言葉に違和感を感じて、咄嗟に言葉が飛び出した。


「春を愛してるぜ?」
自分がポーカーフェイスで得したと思った。
こんなキザな台詞を真っ赤な顔でいうなんてダサいにも程がある。

春はいつものようにバシっと俺を叩くと思いきや、無言で顔を伏せてしまった。


外したかな、そう思いつつ名前を呼ぶ。
「春?」
「なんでっ、こんな時ばっかり……!」
声が震えていたから、嫌がられても顔を上げさせた。
「こんな時ばっかりかっこいいこと言っちゃってさ、いつもみたいに苦笑いして曖昧にしててくれたら、あたし泣かなくて済んだ!」
ぽろぽろと転がる泪を拭いて、春の目を見つめた。
「けど、嬉しかっただろ?」
「ばか、びっくりしただけだよ……!」
「俺は素直な春が好きだけど?」

だから、この時だけでいいから本音を言ってほしいと言外に告げた。


春の泪で俺の手までびしょ濡れになっても、春は泪を流している。
抱き締めたい、そう思った瞬間に春が腕のなかにきた。

「いっつもあたしは花道の次でさ!でもあたしはそんな友達想いの洋平が好きで、けどあたしにもっと構ってほしくて……」
胸に顔を押しつけて泪を見られないようにする春が可愛く思えて、頭を撫でる手がやさしさを増す。

「だからいつもあんなこと言って強がってたのに、なんで今日に限ってあたしの欲しい言葉言ってくれたのよ……!?」
「今日は曖昧にしたくなかったっつうか、ちゃんと言っとかないと愛想尽かされそうだからな」

「………った」
春がぼそりとつぶやいた言葉は、俺の服に吸い込まれよく聞こえなかった。
「ん?」
「だから、嬉しかったの……!」
「やっと素直になったか」
「誰のせいよ」
「悪い、俺だな」
すぐに謝ればくすくすとおかしそうに笑う声が聞こえて、もう大丈夫だと安心した。


「春」
「なに?」
泪を拭きながら顔をあげた春の赤くなった目尻にキスをした。
驚いて硬直する春に構わず、今度はきちんと唇を重ねる。

赤い目がウサギみたいだなんて安直な発想に笑って、ゆっくり重なりをとく。

「そんな顔も可愛いぜ?」
「っ、不意打ち禁止!」

今度こそ照れ隠しにパシッと肩を叩かれた。
「つれねぇなぁ」


逃げようとした春の手を捕らえて、指を絡める。
速度を落として歩調を合わせると、またもやぼそりとつぶやいた。


「花道の秘密特訓、もちろんあたしもメンバーだよね?」
「トーゼン」
「花道の合宿が終わったら、絶対デートしてよね」
「それもトーゼン」

ありがと、と控えめに聞こえたから今度は頬にキスをした。

(だから、不意打ち禁止だって!)
(俺はしたい時にする派)
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