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そうだね、例えば。


真っ黒な髪とまっすぐな瞳。
さらりと涼しげな目元も少し微笑むだけで、やさしいものに変わる。


そこらへんの女の子顔負けなくらいに可愛い顔立ちをしてる。
努力家なのに嫌味じゃないさわやかな性格。

あ、あと女の子に優しいかな?
それはちょっと苦いものを感じるけど、それも彼の長所のひとつ。

あとは、少しだけ強引でしっかりしているのに、意外に鈍いところ。
なのに人の心の機微には敏感だったりする。

いたずらっ子の目を見せられたらたいていはあたしが被害をこうむる。
それもいやなものではないんだけどね。


「あ、そ」
「ひっどーい!神くんのどこがいいの?って聞いてきたのそっちでしょ!」
女友達はこれだから彼氏持ちは……とやさぐれた。
「なんで、神くんも春と付き合ってんだろーね」
「いやいやそれはほんとに傷つくよあたし」

あたしもそう思ってるよ常々。
でも神くんはあたしでいいって言ってくれるんだから、信じなきゃバチ当たるっしょ?

「ねーねー、春しか知らない神くんの新たな一面ないの?」
「えー……」
あるけど、言いたくないな。
だって言ったらみんなが神くんに惚れちゃうと思うんだよね。

「ないしょー」
「ケチー!」
そういいながらも、もともとそんなに聞く気もなかったらしく、あたしも彼氏ほしいなんてありふれた話題に移った。


「春」
「あ、神くん」
「ごめんね、待たせて。帰ろ」
「友達と話してたから大丈夫」

神くんが友達にぺこりと挨拶すると、友達もぺこりと頭を下げてあたしに手を振った。


「今日も校内清掃だったの?」
神くんはみんながやりたがらない美化委員を受け持ってくれたから、毎月こうして美化活動してる。
「うん。春たちのいた教室も通ったよ」
「へぇー!廊下の方向いてなかったら気付かなかった」

いつもの帰り道だったはずなのに、いきなり神くんはあたしの手を握ってきた。
「わっ?」
手を繋ぐのは初めてじゃないけど、こうして無言で繋がれたのは初めてだ。

「春、可愛かった」
「え?なにがー……」
何のことかと思案していると、神くんはくすぐったそうに形のいい唇の端をあげて、あたしに言い放った。

「あんなに俺のこと思ってくれてたんだ?」
さっぱり話がつかめずにいるあたしに、神くんは爆弾を落とした。

「努力家で、女の子に優しくて?」
「あっ……」
「けど俺そんなにいたずらしないでしょ?」
好きな子にしか、しない。
「春にしかしたことないよ」
流された視線にうっと詰まる。
こんな色っぽい目で見られて、もう恥ずかしいったらありゃしない!

「今だってあたしをいじめてるじゃない」
意趣返しでそう言ってみたら、やっぱりまたいたずらっ子の目で、
「好きな子、だからね」

そう言い切った。
あーもう、恥ずかしい!

「そんな恥ずかしいこと、よく照れずに言えるよね……」
こっちは神くんのぜんぶにドキドキさせられてるっていうのに!

「春の照れてる顔可愛いから、見たくなっちゃうんだよ」
意地悪でもなんでもない顔で神くんはあたしに笑いかけた。


からかってるわけじゃないってわかるから、よけいに恥ずかしい。

「あ、そうだ。春しか知らない俺の新たな一面ってなに?」
「ちょっ、どこまで聞いてたの!?」
「10分くらいかな?」
それほとんどぜんぶじゃないかな……?

「……ナイショ!」
「どうして?」
「だって、あたししか知らないからいいんだもん」
だから神くんも知らないでいいの。

「俺は春の可愛い一面教えたのに」
「あははー、ざんねんでしたー」
きゅっと握り直した手はもっとあったかくて、やさしかった。


(それと、俺のこと女顔だと思う?)
(え?……まぁ、可愛いんだから得じゃん!)
(彼女に可愛いっていわれるとは……はぁ)
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