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□真琴
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・上京後の年越し


「うぅっ、寒い……」
「お帰り、真琴」
「だたいまぁ」
「遙はどうだった?」
「お重見て嬉しそうにしてたよ」
「遙用に鯖を入れたからだね」
「あはは。あ、遙からみかん貰ってきた」
「えっ、やった!」
「千晴、みかん好きだよなぁ。でも、普段そんなに食べないよね?」
「コタツにみかんが最高に美味しいんだよ」

遙と真琴と千晴が上京して初の大晦日。
帰省しないのかと親や双子に聞かれたけれど、レポートもあるし休みも少ないということで、春休みに帰ることを約束して双子に納得してもらった真琴だ。
遙も、両親は岩鳶に帰ってこないということで東京に残ることにしたようだし、二人が居るならと千晴も年末は東京に残り、春休みに真琴と一緒に帰省することにした。


初めての、親が居ない年越しだ。
真琴と二人暮らしをする前から、家事に関しては壊滅的に不器用な真琴に代わって料理を一手に引き受けている千晴の料理の腕はめきめきと上がっていた。
もともと、専業主婦の母親が居た千晴に料理をする機会はなかったけれど、やってみたら意外に性に合うようだった。
凝った料理はできないけれど、カレーとシチューで凌いでいた春よりかは、レパートリーは増えた。
お節も煮物や簡単な物だけは作って、あとは市販のものを詰めただけだけれど、やっぱり行事にはきちんと参加しなくてはという思いもあって、遙用のお重を作ったのだ。
遙は放っておけば鯖しか食べない。
年越しはいつも真琴の家で過ごしていたから、遙もお節のないお正月は初めてだったはずだ。
それに見かねた千晴が、急遽真琴にお節の配達役を任せたのだった。


「遙がうちに来なかったってことは、フラれちゃったわけか」
「『お前たちのいちゃつきを何時間も隣で見たくない』って、ばっさり」
「あはは、一刀両断。まあ、明日昼にでも遙の家に寄って、初詣に行こうか」
「そうしよう」
もらった袋いっぱいのみかんに上機嫌になった千晴は、夕食の仕上げに取りかかった。
真琴にはご飯とみそ汁の盛り付けを頼んで、千晴は肉じゃがの味付けを見る。

「ちょっと甘いかな?真琴、あーん」
「ん……俺はこのくらいが好きだな」
「じゃあこれで決まり」
テーブルに全てセッティングして、いつもの通りに二人は食事を始めた。







橘家から宅急便で送られてきた荷物に入っていたファミリーパックのお菓子と、遙に貰ったみかんと、正月用に買い置きしてある飲み物をコタツの近くに準備して、二人はコタツに入った。
冬以外は二人掛けのソファ、冬にはこたつに変身できる一石二鳥のこたつを所有している二人は、いそいそとソファに座って、こたつ布団に潜り込む。
年末の特番を見ながら、お菓子やみかんを頬張る。

「あー、だめだ。食べ過ぎた。お蕎麦入らないかも」
「せっかくエビの天ぷら買ったのに!」
「みかんが美味しいのが悪いんだよ」
指が真っ黄色になるまでみかんを食べ続けた千晴は、お腹を撫でながら真琴に凭れ掛かった。

「小休止しようっと」
「今日はもうみかん終わりだからね」
「お蕎麦食べたらまた食べる」
「だめだよ」
真琴がみかんの入った籠を回収すると、千晴が唇を尖らせた。
みかんの汁で濡れた唇が可愛くて真琴が口づけると、「そんなんじゃ誤魔化されないし」と千晴がもごもご言っていた。

相変わらず千晴は真琴にとって最高に愛しくて可愛くて大好きな存在だ。
千晴と違う学部に通っているから、どんどん真琴の知らない人と関わっていくのは苦く思っているけれど、家に帰ると千晴が笑顔で出迎えてくれる。
親の手前、ルームシェアという形で住んでいるけれど、真琴は結婚生活みたいに思っている。
夜、寝る時までずっと隣で千晴を感じて、ベッドでも千晴を抱き締めて寝ることのできる誰にも邪魔されない生活が幸せすぎて、真琴は同棲してからこっちほとんど上機嫌で過ごしていた。
真琴が悋気を起こして言い合いになることもなくはなかったが、そんなの岩鳶でも日常茶飯事だったから今更だ。

二人だけで過ごす初めての年越し。
クリスマスみたいに浮ついた気持ちになるわけではないけれど、これからも毎年こんな風に過ごしたいなと実感させてくれる貴重な時だ。
二人で寄り添ってこたつに入って、真琴がみかんの皮を剥いて千晴の口に入れてあげる。
千晴もお返しにチョコを真琴の口に入れてあげたりして、特番を二人で見て。

流れる緩やかな時間が少しずつ降り積もって、『真琴と千晴』を作り上げていく。



「千晴」
「ん〜?……んっ」
愛らしい発色のいい唇に噛み付くと、今まで千晴が食べていたみかんの味がする。
舐めたり吸い付いたりすると、小さく唇が開かれて、そっと真琴が入り込むと、更にみかんの爽やかな味がした。
ぺろぺろと味わうように舐め尽くすと次第に千晴の味になってきて、きゅんと真琴の胸が高鳴る。

「んん、はっ」
気持ちよさそうな鼻声を出す千晴が可愛くて、そっと指の甲で頬を優しく撫ぜた。
その愛撫にとろんと目を蕩けさせた千晴が、うっとりと真琴を見つめる。
この顔が最高に可愛いんだよね、と真琴も夢見心地に考える。


色のない純粋なキスを交わしていた筈なのに、真琴の本能に忠実な指がそっと千晴の首筋をなぞっていく。
「んぁっ、まこ、」
首筋が弱い千晴は艶のある声で真琴を煽ってきたので、一気に真琴に欲望の火がついてしまった。

「千晴……いい?」
首に顔を埋めて吸い付く真琴の頭を抱えて、千晴は逡巡する。
そんなつもりは欠片もなかったんだけど、真琴はいつでもどこでも千晴に欲を覚えることができるものだから、二人きりでこんなに密着しているのに真琴が我慢できるわけがなかった。
それに最近は冬休み前のレポートやバイトであまり二人きりになる時間もなかったし、触れ合いが少なかったのも確かだ。


良いよ、と頷こうとしたところで、千晴は動きを止める。
「千晴、だめ?」
「駄目じゃないけど、あっ、こら」
千晴の答えに早速千晴の服のボタンを外し始めた真琴を叱る。
「駄目じゃないんだよね?」
素早い手つきではだけられ、胸にちゅっと唇を落とされた。

「でも、年越しそば……もうすぐ準備しないと」
「俺、年越しそばに負けるの!?」
へにゃりと眉を下げて食い下がってきた真琴に、千晴も負けない。
「えび天買って来たんだよ?真琴だって楽しみって言ってたでしょ」
「言ったけど、楽しみだけど……年越しそばより千晴とシたい……」
「二人で初めての年越しだから、ちゃんとしたいのに」
「うぅ……」
いつもは真琴の勢いに呑まれて真琴の暴挙を許す千晴だったが、今回はひと味違うようだ。
決意は固そうだと真琴は心の中で溜め息をついて、千晴のシャツのボタンを留め始めた。

「わかったよ」
「ありがとう、真琴」
鼻の頭にちゅっと音を立ててキスをされ、それで「まぁいっか」と思ってしまうあたり、真琴は千晴に甘いことを思い知る。

「すぐ作ってくるから、そうしたら」
しようね、姫始め。

甘やかな声で真琴を誘ってくるものだから、真琴は顔を真っ赤にしてキッチンに向かう千晴の背中を見届けた。

「ずるいよ、千晴!」
くすくすと笑い声が聞こえて、真琴は思わず叫ぶ。

「もう、大好きだ!」
俺もだよ、なんて上機嫌な声が返ってきたから、真琴は後で欲望の赴くままに千晴を抱いて、一日中離さないと決めた。



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2016年もたくさんの方に作品を読んで頂けて、とても楽しかったです。
ありがとうございました。
来年もどうぞよろしくお願いいたします!
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