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□真琴
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・超至近距離恋愛シリーズの二人がくっついてすぐのお話です。
 ・ツン1デレ9になってしまいました…!!
 
 
 
真琴はぼんやりと教師が説明する声を聞き流しながら、昨日ついに想いを遂げた相手ー……千晴のことを考えていた。
小さな頃から一途に想い続けていた初恋の千晴が、昨日の放課後、他の男に告白をされている現場を目撃してしまった。
親友というポジションが脅かされる危険を感じた真琴は、千晴たちが話を終えるやいなや、千晴に迫って好きだと叫んだ。
もし千晴が拒絶したらなんてことは考える余裕もなく、誰かのものにならないで欲しいと訴えた。
それまでは千晴を好きなだけで、隣にいるだけで充分だった。
自分を頼ってくれて、甘やかしてくれて、幸せそうに笑ってくれる千晴が居るだけで満足だったのに。
 
 
真琴は正直かなり焦っていて、千晴の返事を待てずに口付けしてしまっていた。
自我が芽生える前から居る当たり前の存在が他の誰かに取られてしまうなら、せめて千晴の初めてを貰うのは自分でなければ許せない。
そんな傲慢で昏い想いを持っていたことに自分でさえ気づけなかった。
 
夢にまで見た千晴との口付けは、理性が吹っ飛ぶほどに衝撃的で。
何度も薄い千晴の唇を甘く食んで、舐めさすった。
この時間が永遠に続けばいいと願った。
唇から千晴を想う気持ちが目いっぱい伝わって、絆されてしまえばいいのに。
どうせ、この夢みたいな時間の後は、最悪の現実が待っているのだから、永遠が欲しい。
だけれどやっぱり時は平等に流れていて、苦しそうに呻く千晴が真琴の後れ毛を引っ張るから、真琴は名残惜しくもその睦み合いを解いた。
 
 
覚えておかなくては。
千晴の、息があがって上気している頬も、とろりと潤んだ瞳の煌めきも、てらてらと光る唇と、そこから呼吸に合わせてちらちらと見え隠れする甘い舌も、全部覚えておかなくては。
 
 
箍が外れてもう一度、と求めそうになる身体をどうにか抑え込む。
 
『っは……ぁ、まこと』
舌っ足らずな声で名前を呼ばれて、背筋が粟だった。
『ごめんね、千晴、俺……っ、千晴が好きだ……!』
俯きながら断罪の時を今か今かと待つ。
 
『どうして謝るの?』
冷たく拒絶する声が降ってくるかと思えば、いつもより優しい声音が真琴の耳に届いた。
パッと顔をあげると、千晴は微笑んでいた。
『知ってたよ、真琴がおれを好きなこと』
『……え?』
『おれも同じだから、謝らないで』
同じとは、どういう意味だろうか。予想外の事態についていけていない真琴は目を白黒させて千晴の言葉の真意を探る。
『いきなりキスされたのはびっくりしたけど……』
頬を染めてもごもごと呟く千晴がとてつもなく可愛いなぁなんて現実逃避したり。
 
 
『嫌じゃなかった……?』
考えがまとまらないまま出た言葉に、今度は千晴が目を瞠って驚く番だった。
『嫌なわけないよ。……嬉しかった、かな。真琴も知ってると思ってた、おれが真琴を好きなこと』
皆おれと真琴の気持ち知ってるから、と爆弾発言を投下した千晴に、真琴は更に困惑する。
 
『ええっ!?みんな、知って……っていうか、りょ、うおも、いになるのかな!?』
全然知りませんでしたと慌てる真琴を見て、千晴はクスクスと笑った。
『両想いだから、恋人になってくれますか、橘真琴くん?』
『もっ、もちろん!お、俺からお願いしたいくらいだからっ!!』
ぶんぶんと元気よく頷いたら、今度はぷっと吹き出した千晴に帰ろうかと促される。
 
 
 
浮かれて、その帰り道に何を話したかも覚えていない。
ただ真琴の頭を占めていたのは、千晴にもらった好きという言葉と、きらきらと輝く千晴の笑顔だった。
 
 
千晴の家の前で別れる時になって、やっぱり夢なんじゃないかと怖くなった真琴は、意を決してもう一度千晴に好きだよと告げた。
『おれも好きだよ、真琴。大好き』
千晴の形のいい唇から紡がれたそれは夢ではないと教えてくれて。
その直後、ハッと真琴は自分のしでかしたことに顔色を青く染めた。
 
勝手に暴走して、記念すべきファーストキスを乱暴なものにしてしまった。
気が遠くなりかけた真琴の状態を察した千晴がどうしたと問うたのと同じタイミングで、真琴は腰を折って頭を下げた。
 
 
ごめんっ、初めてのキスなのに、俺、ひどくして!
 
 
 
千晴はあっけにとられた後、ふふっと面映ゆそうに口元を緩ませた。
『ひどくなんかなかったよ、びっくりしたけど、気持ちよかった』
この時ばかりは、千晴の懐が広すぎて本当は天使か何かではないかと思った。
気持ちよかったと感想まで言われてしまって、真琴の脳みそはオーバーヒート寸前だ。
じわり、千晴の唇の感触を思い出して自分の口を押さえると、千晴は明後日の方向を向きながら、風に消えそうな程小さく呟いた。
 
『もう一回……する?』
その刹那、真琴は千晴の腕を取って千晴の部屋に駆け出していた。
ドクドクと頭に血が昇っていて、千晴の部屋のドアを閉じた瞬間には舌を千晴の口内にねじ込んでいた。
 
夢中になって吸い付いて、何度も何度も舌を絡ませる。
居ても立ってもいられなくて、さらさらの千晴の髪を性急な手つきで撫でては乱した。
鼻から抜ける千晴の声だとか、角度を変えて貪る合間に発せられる千晴が自分を呼ぶ甘く切ない響きに魅せられて、ぐちゃぐちゃにされて。
 
『っんゃ、まこっ、んむっ!も、むり……ぃ』
ズルリと腰を抜かした千晴の膝がカクンと折れ、唇が離れていってしまった。
ドアに凭れて息を乱す千晴の妖艶な姿を見るのは当たり前だけど初めてで、ゴクリと真琴の喉が鳴る。
 
もっと、欲しい。
 
人生の全てを注ぎ込んだ存在にその想いを許された今、これまで意識下で押さえ付けていた欲望が一気に膨れ上がって破裂する音が頭に広がった気がした。
 
 
『千晴……我慢、できない……もっと、千晴に触りたい。キスしたい。全部が欲しい』
熱い息をこぼしながらの訴えに、千晴は目を丸くしたけれど、すぐにふっと目を細めた。
『……うん、おれも。真琴に触ってほしい。キスしてほしい。……全部、奪ってほし、んぅッ』
千晴の言葉ごと食らい付いて、またしつこく唇を舐め回した。
胸の飾りに触れた時に聞いた、腰にクる千晴のいやらしい声に煽られて、もう後戻りはできなかった。
 そして、渚から何かの折に押しつけられたという潤滑油と避妊具で、二人は繋がった。
 
 
 
 
千晴の痴態を思い出しては、盛り上がってしまいそうな自身を冷まして、という行為を何度も頭の中でリピートしていた真琴は、いつの間にか休み時間になっていた時間を使って千晴にメールを送った。
 
一緒に登校したかったのだけれど、真琴が日直当番のため、早く登校しなくてはいけなかったのだ。
千晴とクラスとは教室が遠いため、体調を慮る内容のメールを送ったが、返事はひどく簡潔な『大丈夫』というものだった。
無理はしないでねと返して、次の授業に臨んだ。
 
 
 
昼休みになり、真琴は千晴を迎えに教室に向かった。
昨日ぶりに見た千晴は、昨日とは違うオーラを放っていて、気怠げな雰囲気に真琴は思わず唾を飲み込んだ。
色を知った少年は、こんなにも魅力的になるのだろうか。
それとも、自分が気づかなかっただけで、千晴はこんなに甘い色香をずっと放っていた?
 
昨日のベッドの中の人物と目の前の少年が一致するようでしなくて、真琴はクラクラしつつ千晴に声を掛けた。
 
 
「千晴、迎えに来たよ」
「………」
真琴の声に反応して廊下に視線を寄越した千晴は、ふいっと顔を背けて立ち上がった。
 
あれ、どうしたのかな。
 
すっと真琴の隣にやって来た千晴は、そのままするりと扉と真琴の間をすり抜けて歩き出した。
 
「あ、待って、千晴」
真琴を待たずに、千晴はそのまま屋上へと続く階段を上がろうとしたが、ピシッと固まった。
「千晴?どうかした?」
「っ……何でもない、大丈夫」
 
大丈夫、という言葉に先ほどのメールのやり取りを思い出す。
あ、もしかして、階段を上がるのに腰が辛いのかな。
 
「ご、ごめん。俺、気づけなくて」
千晴の腕を取って自分の肩に回し、千晴の身体にできるだけ重力が掛からないようにして、真琴はリードする形で千晴を屋上まで運んだ。
 
 
「あ、まこちゃーん、千晴ちゃーん、こっちだよー!」
ミーティングを兼ねたランチのため、毎週水曜日にこうして部員で集まっている。
 
既に怜と渚が待ちきれずにお弁当に手を着けていた。
二人によると、江は委員会の集まりと被ってしまったため、今日は来られないそうだ。
遙も購買に寄っているため、あと10分くらいはかかるだろう。
 
千晴がぎこちなく腰を下ろそうとしているのを見た真琴は、サポートしながらも千晴を自分の胡座の上に座らせた。
 
「まこちゃん!?何してるの!?」
「コンクリートの上だともっと腰悪くしそうだから、少しでも和らげられたらと思って」
渚の最もな疑問に平然と答える。
渚はそれだけで、したり顔でにやけはじめた。
「千晴ちゃん、使ったんだぁ?」
目的語のないそれに、千晴はぴくりと反応した。
「別に、」
「あーもー照れなくてもいいんだってば!もうほんっっっっとに長かったよ、二人を陰から見守るの!おめでとう!」
ほにゃっ、と相好を崩した真琴は照れながらお礼を言った。
昨日、スムーズに千晴と身体を繋げられたのは、全て渚のお節介のお陰だ。
 
何の話かわかっていなかった怜も、渚の一言によって状況を把握し、当事者かというくらい顔を赤らめながら、「お、おおおめめでとうございましゅっ」と、何とも可愛らしい祝福をしたのだった。
 
「あ、ありがとう。でももう、この話題はいいから……」
つれない千晴はもうそれっきり口を閉ざしてしまい、真琴の献身的な介護によって無事に昼休みを終えた。
 
 
 
放課後、部活はあったものの、よろよろ歩く千晴を放ってはおけず、真琴も今日だけは部活を休むことにした。
昨日とは打って変わって、真琴の話に千晴は上の空の返事しかしてこない。
もしかして、千晴は実は怒っているのだろうか。
いくら恋人になったとはいえ、真琴の即物的な欲求を一身に受け、日常生活に支障をきたしているのだから。
 
その可能性に思い至った瞬間、サァッと血の気が失せた。
びくびくしながら千晴を盗み見ても、反対側を向いてしまっているから、表情は読めない。
 
 
「千晴……?お、怒ってる?」
恐る恐るそう問うと、千晴は弾かれたように顔をあげたけれど、真琴の顔を見るやいやなや思いっきり顔を背けた。
 
「お、こってない……けど、顔、見れなくて」
考えてもみなかったことにキョトンと固まる。
「ずっと真琴のことばっかり、考えちゃって……いろいろ思い出して。どんな顔して話せばいいかとか、何にもわからなくなっちゃった」
真琴の唇の感触、自分の太股に食い込む力強い指、いやらしく蠢く舌、変なところから出てくる自分らしくない甘い声。
そういうの全部ごちゃまぜになって、何度も頭の中でリフレインしてる。
 
 
清潔な千晴の唇から零れる卑猥なセリフに、真琴は耳まで熱くなる。
 
 
「お、俺も……ずっとそんなことばっかり、考えてた。千晴の言ってくれたこととか、キスしたこととか全部夢みたいで、でも確かにあったことで、それなのにふわふわして現実味全然なくて」
「う、ん」
「だ、だから、現実だってわかれば……少しずつでも慣れていけば良いと思うんだ」
「ん?」
「千晴、その、えっと、……キス、してもいい?夢じゃないって確かめさせてほしい、ん……だけど、」
 
ぶわぁーっ、と一気に茹で蛸になった千晴の答えも聞かず、真琴はその唇にそっと触れた。
昨日優しくできなかった分、今日ちゃんと伝えたかった。
「好きだよ、千晴」
ほんの少しだけ唇を離して、そう告げるとまた柔らかいそれを啄む。
「俺のこと、好きになってくれてありがとう」
今度は角度を変えて、
「受け入れてくれて」
 
下唇を優しく吸い上げて、
「本当に幸せいっぱいなんだ」
 
ありったけの想いを込めて。
 
「ずっと一緒に居てほしいな」
「……うん、真琴の隣にずっと居るから」
小さく震える声で囁いて、千晴はようやく真琴の瞳を見据えることができた。
 
「だいすき」
お返しに千晴からも稚拙なキスを返す。
それだけで真琴は噛み締めるように幸せを味わっていて、そんな真琴を見るだけで千晴まで幸せいっぱいになれてしまう。
 
 
この一件のせいで、千晴への愛情表現に火がつくことや、周りの人間に嫉妬心を燃やす真琴にほとほと手を焼くことになってしまうのだが、それを知るにはまだ早い。
二人には、長い片想いに見合った蜜月が必要なのだから。
 
*****
れん様、遅くなり本当に申し訳ございませんでした。
そしてそして、主人公をツンツンさせられませんでした……。
 
初作が既にバカップルとして出来上がっていたので、二人の始まりを書かせて頂きました。
こんな感じでずっともだもだと両片想いしていたんだと思います。
 
リクエスト、誠にありがとうございました!
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