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□ゲーム
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今日はバレンタインデーというやつだ。
女が男にチョコを気持ちと共にあげる日。


そして、甘党彼氏がそのイベントを黙って過ごすわけもなく。


「帰ったぞー」
「あらあら、大漁だこと」
「まあな」
まんざらでもない顔のこの男は、彼女を目の前にしておきながら貰ったチョコに目を光らせている。
「モテモテですね、ローウェルさん」
「俺が甘いもん好きって知ってるからって作ってくれたみてぇ」
んなのただの口実だろうがよ。
この男ときたら、下町のヒーローとして扱われている。
だけらもちろん、女の子にもモテているわけで。

面白くないな、とは思う。
「嫉妬か?ハル」
「毎年こうだから嫉妬とか言われてもね」

少し鼻白んだ風に言うと、それでも私の心を見透かしたのかニヤリと笑うユーリ。

それが何だか悔しくて。
「ユーリ。あたしが作ったチョコ食べたい?」
「当たり前だろ。それが一番楽しみ」
飄々としているくせに、ここぞという時にこうやって私を喜ばせる言葉を言うんだから、厄介なやつだ。

「はい。どうぞ」
丁寧に箱に詰めたそれを差し出すと、ユーリは柔らかい笑顔で受け取ってくれた。
「サンキューな。一番嬉しい」
「それは良かった」
その笑顔を見せられちゃ、嫉妬だってどこかに吹き飛んでしまうんだ。
「食って良いか?」
「いいよ。でもねー……」

やっぱり嫉妬させられっぱなしは悔しいから。

「貰ったチョコを全部食べてからじゃないとあげないわよ。あ、その間に私が作った物を私が食べちゃうから、頑張って貰ったものを食べ終えてね」
語尾にハートマークをつけてそう言うと、ユーリの綺麗な笑顔が歪んだ。
ついでにユーリに渡したチョコも取り上げる。
「……は?」
「はい、スタート」

号令に急かされたユーリは、「ちょっと待てよ!ハル!」と焦っていたけれど、私が自分のチョコをひとつ口に入れると、焦って目の前にある誰かのチョコを頬張り始めた。


誰かのチョコを味わわせたりなんか、させないから。
それでもこの大量のチョコをこの短時間で一気に消費することはできないだろう。
私が最後のチョコを食べ終えたら、キスのひとつでもしてあげよう。


どんどんとなくなる私の手づくりチョコを見つめながら、ユーリは悲しそうな顔をしながらまだまだある誰かのチョコをもぐもぐと食べていた。

「あ、最後の一個だ」
「ハル……!」
「残念でした」
ぱくっ
「あ………」
ちゅっ

「ハルっ!」
私がキスをすると嬉しそうに唇を絡ませてくるユーリに、私は奇妙な優越感に浸った。
その優越感も、ユーリにベッドにつれていかれるまでの短いものだったんだけれど。

(ちょ、ばかっ、なに……)
(ハルのチョコ、いや、チョコ味のハルをもっと味わわせてくれよ)
(いーやー!)

(嫉妬したくせに、素直じゃないところも可愛いけどな)

>>>
季節はずれ。たまには尻に敷かれてるローウェルさんもいいと思うんだ!
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