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春は、すぐに可愛いと言う。


「可愛いねぇ、にゃんこ先生は」
「あっ、あの子可愛い〜」
「うちのおじいちゃんとおばあちゃん、ほんと可愛いんだよ!」
大好きなの、と顔を綻ばせる春に、俺まで心があたたかくなる。



ご年配や女の子、動物にも可愛いと連呼するのはまだしも、春は俺にまで可愛いと言ってくるから困る。

しかもそれを本当にごく自然に言われるから、身構える時間もない。



たとえば。
「あ、貴志くん。今の話し方、可愛かった〜」
ほわん、と効果音でもつきそうなほどだ。
「……どこがだ?」

いまいち掴めなくて、一体自分のどこが可愛かったのかと問う。

「うーん、なんかねぇ。声が可愛かったんだよね」
「声?」
「そう!真似はできないんだけどね」
可愛かったよ、と何度も言われる。

「俺、一応男なんだけど……」
彼氏が彼女にー……つまり、俺が春に言うなら話は分かる。
けれど、なぜ俺が彼女に可愛いと言われなければならないのだろうか。


「違うの。こういうのは、性別とか年齢とか関係ないの。愛しいなぁ、って思った時に出ちゃうものなんだよ」
「……けど、恥ずかしいな」
「言い慣れると全然恥ずかしくないんだよ!」

照れてる貴志くんも可愛いね。
またそんなことを言うものだから、顔が赤くなってしまった。


「みーんな可愛くて、大好きなんだ」
にこにこ嬉しそうに告げる名前に、なんとなく春が他人を可愛いと言う気持ちが分かった気がした。

愛しいと思う心に正直になってしまえば、いとも簡単に、ほら。

「そういう春も、可愛いよ」
こんな穏やかで幸せな気持ちになれるんだな。



「あっ……ありが、とう」
「どうして照れるんだ?」
さっきまでの春はどこに行ったのだろうか。
「だ、だって……好きな人に可愛いって言われたら、嬉しいし恥ずかしいじゃない」
かあっと頬を赤らめる春がもっと愛しくなった。


「じゃあ、春には俺が言うから。言われ慣れてくれ」
「む……むり!恥ずかしいよっ」
がばっと両手で顔を隠す春が可愛くて、赤い耳元で俺はまたそっと囁いたのだった。


(それは幸福の言ノ葉)

>>>
誰彼かまわず可愛いを連呼するのは私です(笑)
おじいちゃんおばあちゃんって、何であんなに可愛いんでしょうね!
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