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□WJ
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*夫婦設定で、主人公が妊娠してます。


「いってらっしゃい、花道」
ここ2週間ほどオロオロしながらも結局は仕事だからと、大好きな夫はアメリカに試合をしに行った。
いつもならあたしもついていくものの、今は花道との大事な命がお腹に宿っている。
今は妊婦にとってもすごい大変な時期で、1人じゃあ家事すらできない。

そんな時期に最愛の夫が試合で2週間ほど家を空けることになった。
実家にいる姉が花道がいない間はフォローをしてくれる予定になってる。
だから大丈夫、と太鼓判を押して「俺は行かん!」と言う花道を説得した。
旦那さんなのに、子供みたいなこというんだから。

「なんかあったらすぐ連絡しろよ、春!ぜってームチャすんな!」
「大丈夫大丈夫。お姉ちゃんだっているんだし」
「お姉さんにはあとで俺も電話しとく!」
「わかった。ほら、飛行機の時間に間に合わなくなるよ?」
「ぅおっ!じゃあな春っ!」
「あ、待って花道!」
「ぬ?」
どうした、と振り返った花道にあたしはいってらっしゃいのキスをした。
花道は初めてキスしたみたいに真っ赤になって、お腹に負担がかからないように抱きしめてくれた。
「絶対勝ってよね!天才さん」
「おう!任しとけ!」
今度こそ出て行った旦那さんに玄関を出て手を振った。
花道は振り返りながら手を振り返してくれた。

「花道があっちで頑張るんだから、あたしも頑張んなきゃね」



家に入ってボーっとテレビを見ていると、姉がお土産を持ってやってきた。
「ほんと花道くんって面白いよね。子供みたい」
それが花道から電話を受けた姉の感想だった。
くすくす二人して笑って、学生時代の花道の話に花を咲かせる。
高校での部活でいろいろ事件起こして、でもすごい湘北バスケ部は強かった。
たまたま隣の席だったからいろいろ話した(だって花道は毎日毎教科、教科書を忘れていたから)。

「いつでも飽きないよ、花道と一緒に居るの」
「うわぁ惚気られた」
「へへー。お姉ちゃんもいい人見つけなよ」
「そうしたいのはやまやまなんだけどね」
やっぱり女の子は恋愛の話が一番盛り上がるよね。
お土産のケーキを食べながら話していたら、もう夕方になっていた。

姉に手伝ってもらいながらも、出来る限り自分で家事をした。
「旦那は手伝ってくれるの?」
「そうなの!花道のことだからって全然期待なんてしなかったんだけどね、意外に気遣ってくれるの」
失礼だなーとは思いつつも、ほんとにびっくりしたからつい言ってしまう。
「最初はやっぱりなんでも失敗してたけど、最近はちゃんと洗濯もできるようになったんだよ」
「いい旦那じゃん」
「だってあたしの旦那さまなんだからね」
ちょっと自慢気にいうと、ごちそーさまなんて言われた。


今日は休日だったから一日ずっと一緒にいてくれたけれど、仕事がある姉は夜には帰っていった。
これからは仕事が終わってから様子見ていどに寄ってくれるらしい。
お腹を撫でながら、お腹にいる大事な赤ちゃんに話しかける。
「お父さんは頑張ってお仕事してるからね?聞こえてるかーい」
毎日二人で夜寝る前にこうするのが日課だ。
今日はお父さんは不在だけど、仕事だからお腹の子も我慢してくれると思う。
そうして一週間が過ぎた。
姉以外に話し相手もいないし、花道は2日に1回電話を掛けてくれるけどそれ以外は暇だ。
立っているとお腹の重みが原因で腰が痛くなるから、そんなに毎日友達とも会えない。
「つまんない」
ぼそっと呟くと、なんだか寂しい。
一週間も顔を見ないなんて滅多にないから、花道に会いたくて仕方ない。
「もうお母さんなのに、頼りないね」
わが子にそんなか弱い言葉を投げかけたら、電話が鳴った。
もしかして、花道かもしれない!
嬉しくなって急いで電話に出ると、姉だった。
仕事が立て込んでて今日は来れないらしい。
家に寄るために残業をしていないらしい姉は、さすがに今日は抜けられないようだった。
大丈夫と言って電話を切ったけど、こんな人恋しく感じる日くらいは誰かにそばにいて欲しい。


さみしいなぁ。
あいたいなぁ。
だきしめて、ほしいなぁ。




夕飯を食べる気にもならず、果物を少し口に入れて寝室に移動した。
今日は花道から電話が来る日。
それまで本でも読みながら待っていよう。

本を2冊ほど読み終えた時、電話が鳴った。
今度こそ絶対花道だ!
うきうきして通話ボタンを押す。

「花道っ?」
『おう!元気か春?メシちゃんと食ってるか?』
すっごく嬉しそうな声にすごく救われた。
今日は試合の日だ。もしかして試合に勝ったのかな。
「うん。ねえもしかして試合に勝ったの?」
『モチロン、この天才が居るんだからな!』
「ほんとっ!?おめでとう!」
花道が嬉しいとあたしも嬉しい。
よかったねぇ、すごいねぇと思いつく限りの賛辞を述べると、花道は有頂天になってハッハッハ!と笑った。
『春のおかげだ!』
「あたしの?」
『お前が応援してくれてるって思ったら元気になった!オニにカナボーってやつだ!』
「あたしだけじゃなくて、お腹の子もね」
あたしの言葉に驚いたのか、花道は一拍おいてから優しい声で「そうだな」と言った。


「逢いたい……」
花道の声が優しすぎて、つい本音がこぼれてしまった。
『春?』
「じょ、冗談だよ!びっくりしたでしょ?」
あはは、って苦し紛れに笑って見せた。
「あはは!あは、……あ、れ?」
おかしいな、へんだな、泪が出てきた。
そう自覚したら一気に嗚咽までこぼれた。
『な、泣いてんのか春!?』
「違うの、あたしもよくわかんないけど……」
逢いたいよぉ。
あたしは花道が居ないともうだめみたい。

ちょっぴりお馬鹿さんでお調子者だけど、誰よりも大切な存在なんだよ。
あなたの体温や気配が感じられないだけで、この家がつまらなく感じる。

「早く、帰ってきてぇ……」
泪声で必死に懇願する。
ごめんね、弱いお嫁さんでごめんなさい。
花道を支える強い奥さんでいなきゃならないのにね。

ひっく、と嗚咽を堪えると、花道は真剣な声で待ってろと言った。
『泣くな、泣かれたらどうすりゃいいかわからん』
「ごめん……」
花道は昔からあたしの泪に弱かったよね?
あたふたして、つたないけどあたたかい抱擁をくれる。
「花道、もうちゃんと休まないとだよね。ちゃんと待ってるから、だから」
切るね、そう言おうとしたらガチャガチャと玄関が騒がしい。
「あ、れ?お姉ちゃんかな?今日は来ないってー……」
重い身体を引きずって廊下に出ると、ついにドアが開いた。


そこには、おおきな愛しい人。

「は、なみち……?」
「ただいま」
「え?だって、花道は今アメリカに居て……」
「カントクに言って試合終わってすぐ飛行機に乗ってきた」
「どうして……」
「お前が心配だった。また泣いてんじゃねえかって……」
「花道が、泣かせてるの!」
「お、おれか!?」
一歩ずつ近づく距離を一気に詰めて、抱きついた。
子供が!なんていうパパ発言も無視。
「花道の子なんだから、ちょっとムチャしたって平気だよ!」
抱きしめてよ、そう懇願すると花道は気を遣いながらもちゃんと強い抱擁をくれた。

「逢いたかったよ……」
花道の匂い、温度、強さ。それに安心してあたしは安堵の溜息をついた。
「お、れも、だ」
こんな甘い雰囲気にまだ慣れない花道の胸に頭をぐりぐりと押し付ける。
「花道がいないとね、この家に居てもなんだかさみしいの」
「花道がいないとね、なんだか寒い気がする」
「でも今はすごくあったかいんだよ」
いつもは赤ちゃんばっかりだけど、たまには二人だけのことを考えていいよね?
「春……」
「弱いお母さんだよね……」
「弱くていい、俺が守る」
「うん、ありがと」
太い指で繊細に泪を拭かれた。そして口付けを施される。
「えへへ、嬉しい」
「………っ」
「わっ、なに、つよいよ」
ぎゅうと苦しいくらいに抱きしめられて声をあげた。
「お腹、大丈夫か!」
「花道パパはもう赤ちゃんのことばっかりなんだね」
「む……」
「じゃあ、パパがとられる前に思いっきりべたべたしよ!女の子だったら花道はたぶんメロメロになるから」
「男だったら、春が甘やかしそうだ」
「チビ花道だったらすごく可愛がっちゃうかも」
「チビ春だったら、絶対嫁にやらん!」
お嫁さんだなんて、話が早すぎる!
「もう未来の旦那さんに嫉妬してどうするの?」
「俺みたいなサイコーの男にだってくれてやるか」
「あはは、そんなことして嫌われないようにね、お父さん」
「ぬ!?」

あたしたちまだ二人だけど、もう新しい家族のことばかり考えています。
男の子でも女の子でもどちらでも構わないから、元気に生まれてきてくれたら嬉しいな。
「元気な子になってね、赤ちゃん」
「春みたいな可愛い女の子に生まれろよ」
「ぷっ、なにそれ」
花道ってばかわいいー!なんてあたしが嬉しさのあまり笑い出す。
「本当の事を言って何が悪い!」
「悪くない悪くない!じゃあ、あたしは花道みたいに元気で優しい男の子に生まれますようにってお願いする」
「天才を忘れるな!」
「はいはい」
花道がそばに居るって安心した途端、こうしてつれなくしちゃうあたし。

ずっとこうして仲良くしていたいね、できるよね?
やさしくあたしをベッドにエスコートしてくれる花道にもう一度キスをして、幸せをかみしめたのでした。
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