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ハルちゃんがいつも読んでいる小説は、どうやら恋愛小説らしい。
オレのように恋愛ジャンキーってほどじゃないとは思うが、恋愛がすきなんだろう。
単なる疑問をハルちゃんに投げかけると、意外な返事が返ってきた。

「好きな人?わたし、実は初恋もまだなのよ」
サンジくんには考えられないかもね、なんてくすくす笑う。
「ハルちゃんみたいなかわいらしいレディを放っておくなんて、オレにはできねぇけど」
「あら、ありがとう」
初恋もまだなんて言っておきながら、返す言葉にはそつがない。
もしかして担がれているのだろうか?

「なんていうか……小説の中で満足しちゃうのよね」
「満足?」
「恋愛小説はだいだい一人称で話が進んでいくものが多いから、恋愛小説を読むことは擬似恋愛を体験しているようなものなのよ。それに慣れてしまうと、現実なんてどこか冷めている気がしちゃうの。小説のような運命のような出逢いも、胸がドキドキするような展開もあんまりないでしょ?」

だから、わたしは小説を読んでるだけでじゅうぶん幸せなのよ。
「それによくわからないしね、恋愛なんて。わたしに駆け引きはできないと思う」
まっとうに受け止めることしかできない自分は、恋愛を楽しむような人間ではないとハルちゃんは言った。

「じゃあもし、ハルちゃんを狙う男が現れたらどうするんだい?」
「そうね。その人が王子様みたいに素敵で、わたしだけを見つめてくれるのなら、いいかもね」
くすくすと軽口を交わすような言葉。

「なら、王子立候補するぜ」
「え?」
「オレなら王子様みたいに素敵だし、ハルちゃんだけを見つめてるぜ?」
一瞬きょとんとしたハルちゃんは、次の瞬間には笑いを堪えきれないように肩を震わせた。

「あはは、ありがとう!サンジくんは王子様みたいに素敵だけど、女の子みんなが好きなんでしょう?」
今までの素行が悪すぎたのか、1ミリも信じてくれる気はないらしい。
「こう見えても、好きになったら一直線の一途な王子だぜ?オレは」
それじゃあまず手始めに、とハルちゃんの手の甲にキスをした。
「ちょ、サンジくん!?」
「ハルちゃんを一生愛します、って誓うよ」
運命みたいな出逢いじゃなかったけど、君をドキドキさせることならできそうだから。
「とりあえず、ハルちゃんの胸がとろけちゃうくらいの甘い愛の言葉を囁き続けるよ」

(小説じゃ体験できないような、胸が痛くなるくらいの高鳴りを)
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