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・前の話とは違うお話です。
・モブの男女カップルが少し出てきます。


「大我、食べかすつきまくってる」
「んー、サンキュ」
始終ニコニコ顔で肉食リスこと火神が頬袋にハンバーガーを溜め込むのをうっとりとした目で見ながら、千晴は火神の口の周りを拭いてやる。
火神は何度も自分でやると言っているのにもかかわらず、やりたいからやってるんだむしろやらせて下さいと恋人の千晴が土下座せんばかりの勢いでお願いしてきたので、そこから火神は千晴の行動を許した。

それが更にエスカレートして、着替えを手伝われたり汗を拭かれたりドリンクを飲まされたり、あげくの果てには弁当をあーんで食べさせられても、恋人に滅法弱くて甘あまな火神は許してしまっていた。


「大我、ハムスターみたいで可愛い」
自他共に認める火神バカである千晴は人目もはばからずに、長身で筋肉質の火神を可愛いと言う。
火神の名前を呼ぶ時、可愛い、愛してる、大好きなどと口に出す時は語尾にハートマークが何十個もついていることを確信させる程に甘ったるく言葉を紡ぐのだ。


これが生粋の日本人ならば、恥ずかしいと思うのかもしれない。
その点、アメリカという日本に比べて感情の面が大らかな国で育った火神には、恥ずかしいだとかそういった感情はあまりなかった。
相手を褒める、認めるといった言葉はよく口に出すことが大抵のアメリカ人のコミュニケーション方法だ。
それが恋人であれば尚更である。
火神も千晴が愛しいと思えば素直にそう口にしたし、愛の言葉を極上の笑みで受け止められて悪い気になる奴はいないだろう。

手の着けられないバカップルとして君臨している彼らには、自重という概念すらあるのだろうかと真剣に考えるのは、一番身近で被害を受けている黒子だ。
鬱陶しいことこの上ないです、と黒子お得意の毒舌を浴びせても千晴は怯むことなく火神への愛を全身で表現している。





「大我、あーん」
火神の喉が渇いた瞬間を見計らい、Lサイズのコーラが入ったカップを持ってストローをこちらに向けてくる恋人は、幸せ全開のオーラを放っている。

「むがごご」
「うん、どういたしまして」
口の中の食べ物で遮られてきちんと言えなかった「ありがとう」を理解して返事をくれた。

「はぁ、大我の食べっぷりは毎日惚れ惚れするよ……」
肘をついて掌に頭を乗せて呟く千晴のもう片方の手にはポテトがある。
「んぐっ。……なんだ千晴、それ食わねえのか」
「大我の食べっぷりを見てるだけで幸せで胸がいっぱいなの。はい、あーん」
ごっそりと掴んだポテトを大きな一口でぺろっと食べた火神に、
「きゃー大我くん素敵ー!イケメン、抱いて!」
と一人で盛り上がる千晴。

「ぶほっ」
衝撃的な言葉に火神が思わず吹き出すと、心配そうに千晴が火神の顔を覗き込む。

「えっ、大丈夫?どうかした?」
バスケ一直線の火神は色事に疎く、千晴ともまだ軽いキスしかしたことがない。
一足飛びにそう言われても火神だって心の準備というものがある。
ドギマギと煩い心臓に手を当てる火神とは対照的に、爆弾発言をこぼした本人はケロッとした顔だ。


「……なんでもねぇ」
「そ?喉に詰まっちゃったかな。ちゃーんと30回噛まないとダメだぞ」
「……おう」

火神の返事のどこに満足したのか、千晴はえへへと笑った。






「……これ、食えば」
「えっ、大丈夫です、先輩が買ったものですしっ」
不意に隣の席の二人組の会話が聞こえた。
気まずそうに向かい合って座っているが、会話を聞くに付き合いたてほやほやの恋人同士のようだ。

「お前言ってただろ、これ好きって。いいからほら、食えよ」
ぐいと押しつけられたアップルパイを彼女があわあわと受け取る。
「ぁ、えと……ありがとうございますっ」
勢いよくお辞儀したせいで彼女が机に頭を打ち付けてしまった。
ゴチンッ!と見ているだけのはずのこちらまでが痛みを覚えて眉をしかめる程に大きな音が聞こえた。

「だっ、大丈夫かよ!?」
「はぃっ!す、すみません全然痛くないです大丈夫ですはい」
「涙目になってんじゃん」
「すみま……」
自分の失態に涙腺が緩む彼女に、彼は勇気を持ってそのまろい額にそっと触れた。

「ひぁぁっ!?」
彼がほんの少し指先で触れただけで、彼女は今度は仰け反り返って壁に頭を打ちつけた。
おぉ……これがジャパニーズドジッコってやつか。
火神はぼんやりとそんなことを思った。

と同時に、良いなぁとも思った。


ヤマトナデシコといえばいいのだろうか、控えめで彼の行動にああやってあたふたする彼女はさぞ可愛いに違いない。
照れたりはにかんだり、緊張でうまく笑えなかったりする。
そんな子を相手に、周りがじれったくなるくらいに淡くて甘酸っぱい恋をしてみたいもんだ。


火神はちらりと恋人の千晴をみやる。

千晴は付き合う前からかなりアグレッシブにアピールをしてきていた。
挨拶や雑談を始めるのは絶対に千晴で、「大我のそういうところ大好きだ」なんて臆面もなく言いやがる。
千晴はきっと彼女のような奥ゆかしさだとか繊細さは持ち合わせていないのだろう。
相手の反応なんてお構いなしに、自分の気持ちをまっすぐ過ぎるくらい正直に吐き出すのが千晴だ。

あーあ、言われてみてぇもんだな。
「っご、ごめんっ!き、緊張しちゃって、顔見れない……は、恥ずかしいっ」
だなんて、さ。
うん、悪くねぇ。悪くねぇ、が……。



「たーいーがーくーん?」
火神が妄想を繰り広げている間に、千晴は火神の前で手を振り続けていた。
「あ、悪い」
「どうした?」
「んー?俺はやっぱり、お前がニコニコ笑ってんのを見るのが一番好きだと思ってよ」
千晴はそれが一番しっくりくる。

その言葉を投げて、食べ終えた後のトレーをゴミ箱まで持って行く。

「おし、行くぞ」
店を出てから千晴に手を差し出すと、腕ごと抱え込むようにして手を握った千晴に火神も微笑む。

「大我!」
火神を呼ぶ、甘党も胸焼けを起こすほどの甘ったるい声。

「だいすき!」


俺も好きだぜ、と千晴を撫でる火神は、自分も甘ったるい声音だったことなんて気づかなかった。


>>>

男前かがみん。
2次創作を見てるとピュア火神さん多い(?)と思っていたんですが、アメリカ帰りなら愛の言葉くらいならさらりと言ってのけそうだと思ったので。
相変わらず火神さんのキャラが迷子ですみません。

こんな感じのバカップルを書くのがけっこう好きです。
お互いを好き好き言ってて、リア充爆発しろと思われてるくらいのが。

リクエストにない作品を勝手に書いてしまいましたが、全く別物のお話として捉えていただけると嬉しいです^^
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