高嶺の花。とは、よく言ったものだが、それがいったいどうしたと言うのだ。


「……いいじゃないか、高嶺なんぞ登れば届く」


「うん?どうしたんじゃ高杉さん」


坂本君が小さな俺の声を拾い上げて首を傾げる。


「いいや、なんでもない」


ひらひらと眼前で手を振って誤魔化すと、それを察してかそれとも素直にか、
坂本君はそうか。と笑って聞き流してくれた。


この、坂本龍馬という男は、身体もでかいが器もでかい。


認めたくはないが、俺は彼に随分差をつけられているのではないかと思うことが度々ある……。

特に『彼女』に関しては、大きく先を行かれているのであろう……。

初めて会った時期も、一緒にいる時間も、仲も、何もかも……坂本君のほうが優位だ。

彼女はすでに、高嶺の花よりも遠い存在になってしまっているのではないか……そう思いつめてしまうほどに。


「今日も良い天気じゃのぉ!抜けそうな夏空とは良う言うたもんじゃと思わんかえ?」


のびのびと両腕を空に向かって伸ばしながら、
からりと笑う坂本君が満面の笑みをたたえてこちらを振り返った。


「まあ、そうだと思うが……けどな、坂本君。昨日も似たような天気だったぞ?」


最近は雨の気配もなく良い天気の続くこと続くこと……


「ははは!ほうじゃったのう。けんど、高杉さん。昨日は昨日、今日は今日じゃ!」


同じようで、違う一日。今日と言う日は今日しか無いろう。

そう言って笑う坂本君を見ながら、
あぁ、俺はこういうところで坂本君に水をあけられるのか……
悔しくなって空を見上げると、美しい青に雲ひとつも無く透き通る空。


抜けるような青……


「抜けちまいそうなら、そこからあいつが落っこちてくれば良いのにな……」


「……ほうじゃのう。と言うても、わしは落っこちてきたあの子を捕まえられた事はないんじゃがのお」


隣に並んだ坂本君が俺に習ったように青空を見上げて、とっても困ったような笑みを浮かべて呟いた。


「わしはいつもいつも踏んづけてばっかりで、
たまには高杉さんのように受け止めて欲しい。と怒られてしもうた」


どうやったら高杉さんのように受け止められるかのお?


そんな風に言われて、不意に嬉しさがこみ上げた。

まだ決まらぬ勝負を諦めてどうする?

微かにでも、この強敵に負けぬ事があるのだから。


「苦労する身はなにいとわねど苦労しがいのあるように……か!譲らんぞ、坂本君!」


せめて笑い声の大きさでは負けぬよう、彼女に聞こえるよう、高らかに笑った。




大きい人 対 小さい人




絶対に見逃さないし、必ず受け止めてやる!


だから、落ちてくるなら俺のところにしろよ。


なあ、聴こえるか?



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