リク、キリ番etc

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「ヒロさん、出る……っ!」

「ぁ……ああっ、は……ん……」

どくっどくっと、内から満たされていく感覚。

弘樹は耳に触れる愛しい人の荒い息づかいにぴくりと震える。

穿たれた楔が抜かれようとして、内壁が名残惜しいと訴えてきゅっと締まった。

二人は数ミリの隙間も厭わしいと互いの肌を密着させる。

達して、ほんの僅かに冷静になった弘樹は情事を思い出して、羞恥心に顔の熱が上がる。

「ヒロさん」

名前を口にして幸せだと全身で訴える野分。

弘樹は彼の顔を至近距離でとろんと見つめて、すぐに思い出したように眉間に力をこめる。

野分は片方の手で弘樹の頭をよしよしと言いたげに撫でて、余った手でゆるゆると腰に愛撫を始めた。

情事の後戯はいつもと同じこと。
穏やかに戯れて、幸せの中で眠る。

ただ、今回は違った。

「離してくれ」

「ヒロさん?」

野分の手を振りほどくと、先ほどの行為により重くなった腰をさすりながら弘樹はベッドから出た。

何の物音もしない部屋は静かで、熱に浮かされた行為が嘘だったようだ。

「……シャワー浴びてくる」

「は、はい」

弘樹がドアを閉めるまで、野分はただじっとその人を見ていた。



どれくらい経ったであろうか。

手持ち無沙汰に枕元の時計を見れば、弘樹がシャワーを浴びに行ってから30分ほどだった。

最初は水の音がしていたが、今は何の音もしない。
バスルームの扉は建て付けが悪く、上がったらのならガシャンというが、その音はまだ聞こえなかった。

弘樹は長風呂をするほうではない。

だんだんと野分は不安になってくる。

のぼせてしまったのではないか、もしかしたら転んで頭を打ち、気絶しているのでは……?

野分は考えすぎだと無心になろうとしたが、一度気になると止められなかった。

拒絶するような態度を取られたため、行ってもよいのか逡巡していると、もしかしたら、俺が来るのを待っているのかもしれないという境地にいたり、野分は腰掛けていたベッドから歩きだした。


脱衣場に着いてみると、ドア越しに弘樹の影が見えず、脳内で浴槽の中ぐったりしている弘樹の姿が浮かび、 野分は衝動的にドアを開けた。

「ヒロさん!」

弘樹は浴槽にいた。

しかし、その姿は野分の想像とは違った。
否、予想を超えていた。

「み、見るな……」

声に覇気はない。
顔を真っ赤にそめて、睨む余裕もなく、手は隠しきれない欲望を覆っている。

野分は息をのんだ。

恥に堪える処女か、快楽を覚えはじめた少年のような、初々しさと艶めかしさ……。

目をそらせない。
目に焼きつけろと本能が言う。
 
態度では嫌がっているのに、その目は欲情に濡れていた。

「俺に触れられるのは嫌がったのに……」

服が濡れるのは気にせず、野分は浴槽に手を伸ばして弘樹の高ぶりを掴んだ。
そして、彼の好きな風に攻め立てる。

「ぁ……ぅ…ぅ…ぁン」

弘樹は自分から手のひらにそれを押しつけて、やがて湯の中に白濁を放った。

「いやらしい人だ ……触れられたくない相手でも、あなたはイけるんですね」

弘樹は火照っていた体からさーっと血の気が引いたのが分かった。

「違う」

小さな声で訴える。

「じゃあ教えてください。俺を拒んでマスターベーションをしていた理由を」

野分の目は怒りをたたえていた。

こうなったら、弘樹は自白せざるを得ない。

「……ヤった後に触られるともう一回シたくなって困るんだよ」

目を合わせずにぼそぼそと語られた言葉はまたも野分の予想とかけ離れていた。

「どういうことですか」

「だから、あの甘ったるい空気でお前と密着して腰撫でられて、そのまま寝るのは辛いんだよ!」

開き直ったようにまくし立てられて、野分は目を見開いた。

「それはつまり、えっと、俺が嫌いになったとかそういう事ではないんですね」

ようやく事のあらましが見えてきた野分である。

「嫌だったら最初から抱かれねえよ
 ……最近一回しかシねえだろ。お前はそれで満足そうだが、俺は全部終わった後に悶々としちまう。
だから、風呂で一発抜けば満足できると思って試してみたんだよ」

しかし、一度絶頂を迎えたためか、自分による刺激では達することができず、かといって拒絶して今さら戻ることもはばかられて、結局意地になって自身を高めていたのだ。

「我慢させてしまってすみません。
でも、こうなる前に言って欲しかったです。ヒロさんが求めるなら、何度でもシます。何でもあげたいんです」

耳が垂れた犬のようにしょんぼりと謝り、餌をもらえなかったかのように拗ねた調子で弘樹を小さく責めた。

「みっともないだろ、良い年してがっついてて。
それに、お前はそうやって言うけど無理させたくねえ」

「無理なんて…… 俺はいくらヤっても足りないくらいですよ。
いえ、一回で満足してないというわけでなく、ヒロさんとセックスできるだけで幸せなんですけど
ヒロさんに求められたら、もっと幸せです 」

そう笑いかけて、弘樹の手を取り脱衣場へ向かう。

タオルをとって、手慣れた動作で弘樹の髪を乾かしていく。

「体力を余らせて一回目の後に触れ合うのが心地よかったのもありますが、実は俺も遠慮していたんです。ヒロさんの方が負担が重いのに、何だかんだで付き合ってくれるだろうから」

「それは…… 本当に無理だったら止める」

互いに照れくさくなって、暖かい沈黙の中髪をふき、ふかれる行為が続いた。

水滴が落ちなくなり、いつまでもそうして居ることはできなくなる。

二人はどちらともなく抱きしめあった。

野分は弘樹の耳殻に唇をよせ、囁きかける。

「仲直りのエッチ、しませんか」

「…………お前が髪乾かすのおせーし服着てねえから、その、寒いだろーが」

「寒い」は弘樹のOKサイン。

脱衣場にはぴちゃ、ぴちゃと二人の口づけの音が広がる。

もう、ベッドに戻る余裕もなかった。

洗面台に手をつかせ、弘樹の窄まりを愛撫すると、彼は後ろを向いて何か訴えようとして、やめてしまった。

そんな彼を見て野分は催促をためらったのだろうと解釈し、髪を撫でてやる。

本当はすぐにでも挿入してしまいたいが、つながっていたときから時間が経過してしまったので、再びほぐすつもりだった。

人差し指をつぷりと差込むともっともっとと奥が求めてきて、一気にもう二本の指を突き立てる。

早急な動きに翻弄され、快楽を求めて弘樹の腰が揺れる。

ぐちゅ、びちゅ、と体内をかき回す淫らな音と弘樹が堪えきれずに出すん……ぁ……という喘ぎ声が空間に満ちて野分を煽る。 

奥までとろけさせきった指を抜く。
すると、見覚えのある白いどろっとした液体が窄まりと指の間でつながっているのが分かった。

弘樹は不安そうに野分を見ている。

「ねえヒロさん、これ俺が出したやつ……ですか」

野分は欲情しきった表情をして指で広げた白濁を見せつける。

「通りで指がすんなり入ると思った……。
てっきりお風呂で出したと思ってましたよ。一人じゃ難しかったですか?」

「……お前のが中にあったら興奮するから、出さなかった」

素直な弘樹に野分の猛りが一層質量を増す。それを押し付けるように覆い被さって抱きしめる。

「ヒロさん、かわいいです。どうしよう、今すぐ入れてぐちゃぐちゃにしたい」

「こいよ、はやく」

切羽詰まっているのは野分だけじゃなかった。

そして、かろうじて機能していた二人の理性は崩れ去り、再び戻ってきたのは本来の寝床ではない固い床で目覚めたときであった。



END
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