SS

□そしてこれから。
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「か、勘弁してよ…」

ソファーにぐったりと身を預けて呟いた。

「おお!この事務所も久し振りだな。
ザ・ナメクジの割にきちんと管理できていたようだな。ご苦労。」
魔人は久し振りのトロイにちらと触れてから椅子に腰掛けた。

「…どうも」
恨みを込めて吐いてやる。

ネウロがTVをつけた。
『777便は太平洋上のこの地点に不時着陸しました。
生存者●名、行方不明者1名。行方不明者はあの名探偵桂木弥子さんです。』

『突然旅客機の窓に穴があいたそうです。この窓の席に座っていたのが大使館事件を解決した桂木弥子さんという事で、新手のテロかという見方も…』

チャンネルが次々と切り替わる。
どのチャンネルも同じようなニュースでもちきりだ。

そう、メキシコでの大使館立てこもり事件を解決したあとあたしは現地の美味しいご飯をたらふく食べ、満足して意気揚々と帰路の飛行機に乗っていた。
その飛行機の窓の向こうに…有り得ない姿を見た。

否、三年前には当たり前だった。
重力を無視した立ち方、目立つのか目立たないのかよくわからない青いスーツ。
黒い前髪に金髪。

…あ、髪飾りがついてる。

うたた寝をしててまだ半分夢うつつの脳で考える。

あ、なんか久し振りだなこの不気味な笑顔。

…何腕振り降ろして…

……


…て、 いうか…


「…え?」

ちょっ、ここ飛行機!旅客機!高度3000m!
何する気だ、このバカ魔人ー!!!!
さっさと帰って来いとは言った、言ったよ!!
だからって飛んでる機体に現れるか!?
ていうか窓割ろうとすんなー!!


ぎゃああああああああ!!!!


---------後は記憶にない。 気付いたら事務所にいた。
しかも時差もない。
どんだけ超人なスピードで帰ったんだ。
そのせいか頭がぐわんぐわんする。
あの後穴の空いた旅客機の中は大騒ぎだっただろう…
知りたくもない。


「貴様なんだか有名になっているな。やはりあの飛行機のインパクトが良かったか」
TVを見ながらきゃっきゃっとネウロが笑っている。

「…ていうか、」
グラつく体をなんとか立ち上げて、トロイへ向かい、彼の手からリモコンを奪う。

ガンガンする頭を抑えて声をしぼりだす。
「もっとマシな登場の仕方はないのか、このバカ魔人…」
「ふむ、あまりにも久し振りの地上だったのでスッカリ常識を忘れていた」

「白々しいわぁ!!生死を彷徨ったわ!!」

思わず手に持ってたリモコンを床に投げ付けてしまった。
…あ、頭痛い

三年ぶりの再会、しょっぱなからこんなDVかまされるとは思ってなかったわ!
これなんてDV?

ああ、こいつはこういう奴よね。
相変わらず過ぎて泣けてくる。
ああああ、色んな後始末が怖いいいい!!

つい頭を抱えて床に座り込む。
うう、まだガンガンする。


「…謎だ」

「は?」
呟いた声の方を向いたらネウロが立ち上がってこちらに歩いて来る。
長い手が伸びてきてあたしの頭を掴んだ。

「ちょっ頭握りつぶすのは勘弁してよ!まだぐわんぐわんするんだから!」
手を頭から振りほどこうとすると。

「謎がたまたまあそこにあったから、たまたまそこに出て来てしまっただけの事だ」

思わずネウロを見上げた。

「…?でも事件なんてなかったじゃない。いきなし窓割ってあたしだけさらって。
ていうかあんたが事件起してんじゃん。
どうしてくれんだ、飛行機。」

「問題ない。今しがたニュースでやっていただろう。春川が創ったシステムで今頃救助されている。」

「そういう問題では…(汗)」
「その春川だ。いや、HALか」

「? HALがどうした訳?」

「貴様は覚えているか。HALを倒した時に貴様が我が輩に言った言葉を」


唐突になんだろう。
三年前、日本中を震撼させた1人の哀しい犯罪者が脳裏に浮かぶ。
ただ愛した女を再現する為だけに壮大な犯罪を犯したHAL。
彼を消去した時のやりきれなさは今も忘れられない。
ああ、そういえばあの時 に言った。
『あんたにはわからない』


「…覚えてるけど…。それがどうし って、いてぇ!!」

突然壁に向かって投げられた。

なにすんだ、と睨んだら、 ネウロが私を見下ろしてニタリと口の両端を上げた。
その手には極太チェーンが。

これからDVの時間なのか!?またこのパターンかよ!
ゆっくり再会を楽しむ暇もないのか!
ていうかネウロはこれが趣味だから楽しいんだった。
楽しいのネウロだけじゃねぇか!


慌てて立って構える。
口の両端をあげた魔人が鎖をじゃらじゃらいわして寄ってくる。

「…我が輩、今まで腑に落ちなかったのだ。」

「な、何がよ?」
じりじりと後ずさる。
歩数に合わせてネウロもにじり寄って来る。

「自らの生存も顧みず戦った事といい、ヒグチに救出された時に聞こえたHALの言葉といい…」

ネウロの動きが止まる。

「あの時考えた。ここまでしたのは果たして食料を守る為だけだったのかと。」

「ネウロ…?」

あの時ってなんだろう
何か思い悩んでる?
思わず立ち止まって手を差し出した。


瞬間、チェーンがあたしの腕に巻き付いた。

「あっしまっ…!!」

くっこれはいつぞやの八つ当たりと同じパターン!
またハメられた!

体が一気に鎖に絡められ、ネウロのほうに引っ張られる。
ネウロの顔が間近に迫る。
さらに吊り上がった口から言葉が紡がれる。


「…HALは愚かだが否定できんな。今ならHALが何をしたかったのか理解できる」

「……話の前後が脈絡なさすぎて意味わかりません。
…ギブギブ!!首絞めるなあっ
死ぬ、死ぬ!」
ばしばしと手を叩いて涙目で訴えるとネウロの目が細められた。


「飛行機の中にいる貴様を見た時理解したのだ。
飛行機にあった謎、あの時浮かんだ疑問の解、HALの謎の意味を。
…我が輩の在るべき場所は魔界ではなくこの世界だ。
貴様が存在するここでなければならないのだと。」

「…そりゃ、あたしがいなきゃあんたは謎食べれないんだし…
…?ええと?」

あれ?
ネウロが言いたいのって、こういう事じゃない気がする。

「……」
ジッと間近の綺麗な顔を見つめる。
緑色の螺旋の双眸が見返してくる。

…相変わらず腹立つくらい綺麗な顔してるよな。
皆騙されてるよ…
あ、いやいやそうではなくて。

ネウロがさっき言った事を反芻した。


人間を、食料を守る為だけに戦ったのかと考えた?
その解は見つかった?
他に理由があったって事?


謎を求めてやってきたら飛行機で、中にたまたまあたしがいた

謎、って向上心から生まれるんだよね
でも事件はなかった。
周到な魔人の事だ。
たまたまあたしがいた、なんてことはないし…


HALがなにをしたかったのかが今ならわかる…?

HALはただ愛した女に会いたかった。
それを否定はできないとネウロは言ってるの?

…ん?会いたかったって事…?

誰に…?

…あ れ?


「いだだだだ、痛い痛い!!」
突然頭がみしみしと握られた。
「ちょ、息苦しい!!頭も首も痛い!!死ぬよ!!
一瞬お父さんと笹塚さんが見えたじゃねぇか!」

「この程度で死ぬような鍛え方はしとらんぞ。
人間の事は解っても我が輩の事はザ・ナメクジにはまだわからんか。」

「はぁ?分かってる事と言えば、あんたは相変わらずドSだって事ぐらいだ!」

「フハハハ
そういう貴様もあまり代わり映えせんな。相変わらずドラム缶だな。」

「それは余計だ!こちとら、あんたのいない3年間色々あったんだよ!
そうそう笑ってられんように目にもの見せてやる!」

鎖がほどかれた。
ネウロは鎖を床にほり、トロイのほうへ歩いて行きあたしに向いあってからトロイに腰掛けた。
ちょうど目線が同じになる。

「…ほう。それは楽しみだ。約束は果たせたようだな。


「……あ。そっか。
あたしを見つけてくれたんだ。しょっぱなからアレだったから忘れてた」

「久し振りに先生にお会いできたのでつい嬉しさのあまり我を忘れてしまいました☆」
緑色の目がウィンクして爽やかに笑う。

「うわ!その助手モードも健在!ああ〜またDVとあんたに振り回される日々が始まるのかぁ〜」

「…イヤか?」
お決まりのおねだりポーズで返してきた。
うわー…これも久し振り… ああなんかようやく実感沸いてきた。
ネウロがまたこうして目の前にいるんだ。
この3年間、早いようで長かった。
自然と笑みがこぼれる。

「イ・ヤ!




……なわけないじゃん!」

ネウロのほうへ歩いて行き、人差し指で頭を小突いた。
ネウロがキョトンとした顔で返してきた。

「ずっと待ってた。この3年は充実した時間だったけれどそれでも足りなかった。


「……」

「あたしもあんたに会いたかったよ。」

ネウロの手があがり、あたしの頭にポンと乗せられた。
「…これからも頼むぞ相棒」
「もちろん!今度は日本だけじゃなくて世界だよ!」


お互いに顔を寄せ合って笑いあった。



…この先、また色んな出来事に出会うんだろうな。
その側にはまたこの魔人がいる。
その中でお互いの関係が変わる予感がした。




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