SS

□帰る
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我が輩は 魔界へ 帰るぞ

そう宣言してから何時間経っただろうか。

ソファーに体を横たえた魔人はふと視線を下にやる。
視線の先、床で首から胴体までを鎖に巻かれた弥子がすうすうと呑気な寝息をたてている。
寝ているといっても、トラップに引っ掛けて首に鎖を巻き付け気絶させたのだが。

この大きく進化を遂げた娘と初めてたわいもない雑談を長く語り明かした。
今までにあった事件の思い出、警視庁の人達とのじゃれあいやネウロとのこと、ヤコの家族のこと。
ヤコは表情を目まぐるしく変えて笑いながら話す。
時折、悲しそうに押し黙り、沈黙が続くのでその度にDVを与えてやる。すると面白いくらいに顔を真っ赤にして怒る。
その繰り返し、繰り返し。

先程までの出来事を反芻した後ネウロは体を起こし、ソファーから立ち上がった。
足元に寝ているヤコの頭を掴み、自分の目線の高さまでヤコを持ち上げる。

「うぐぅ…」
掴まれた頭が痛かったのか、ヤコが顔をしかめたが無視する。
ネウロはそのまま眠るヤコの顔をしげしげと眺めた。

だだ謎を求めて地上に来た。偶然この娘に出会った。
それだけの出会いであったのに。
なんと遠くまで来たのだろう。
この人間の進化はとどまるところを知らない。
可能性を求め続けるその姿は魔界にはないものだ。
だからこんなにも輝いて見えるのだろうか。
何故こんなにも離れ難いのだろう。

ネウロがわかるようにもっともっと輝くから魔界からここへ帰って来い、と言ったこの娘。

「…フン 主人に帰って来いとは生意気だな。ザ・ナメクジ」

ガシャン と甲高い金属音が床に響いた。
ヤコに巻かれた鎖が切断され、落ちた。
鎖がなくなった分軽くなったヤコを床に寝かし、そのまま足を事務所の扉へ向けた。
アカネが心配そうにおさげを揺らすのを視界の端にちらと見やり、事務所の扉をくぐる。

我が輩は深呼吸に戻るだけ。
再びこの世界、この時代、この地上へ戻る。
その先には今よりも進化し、可能性に満ちた人間達が待ち受けているだろう。
我が輩が帰ってくる可能性を作り出してくれるであろうこの娘の元へ帰ろう。


そして究極の謎を食べるのだ。

静かに事務所の扉が閉められた。




後書きに続きます
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