*ガンダム00*

□カーディガンと指先
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朝起きると、まずは操縦室へと向かう。
異常は無いか、敵艦の接近は無いかをチェックするのはいつものこと。

皆の元へ向かう足は鉛のように重たいけれど、やはりいつも確認していることだけに気になる。
部屋を出てもう随分と時間が経っているというのに、部屋から数メートルも離れていない自分自身に苦笑する。


(さっき覚悟を決めたはずなのになあ)


ちっとも腹を括りきれていない自分に活を入れる為にぶんぶんと首を振った後、ふわんふわんと廊下を漂いながら操縦室へ向かった。


「…ティエリア!」


すると、後ろのほうから自分を呼ぶ声。

「…あ…っ」

その少し独特な低い声に大げさなほど肩が揺れる。振り向けずに只カーディガンをぎゅうと握り締めた。


「おはようございます…ロックオン…」


さっき何度目か知れない覚悟をしたものの、いざ見られるのはやはり抵抗がある。
何を言われるだろう、そう思ったらどうしても振り向けない。
申し訳ないと思いつつも、背後にいるであろうその長身に振り向かないまま声だけ投げかけた。


「…ミススメラギから聞いたぜ、大変だったなぁ…」


「…ロックオン……」


スメラギの配慮はこんなところまで行き届いていたようだ。
皆がティエリアを見て驚かないように、そして皆の反応でティエリアが傷つかないように、あらかじめクルーに伝えていたらしい。

そんな気遣いが何だか無性に嬉しくて胸が熱くなった。

カーディガンで胸を隠しながら、そろりとロックオンのほうを向く。
けれどもしょぼんと項垂れて、目を見ることが出来ない。


するとロックオンが、少し驚いて、それから小さな声でまいったなぁと呟く。
不思議に思って顔を上げたら、少し困ったような顔の彼と目が合った。


「…大丈夫か?体、痛いか?…違和感とかは?」


「…大丈夫、です」

体が重いし少し熱っぽかったけれど、気遣ってくれるロックオンを心配させまいと嘘をついた。


「……そうか。でもくれぐれも無理はするなよ。体の構造もパワーも、男と女では別物だからな」


そう言ったロックオンは、やはりティエリアが体調が優れないこともお見通しだったようだ。
自分のベストを脱いでから、体を冷やすなと言ってそっとかけてくれた。


(…あったかい…)


スメラギ同様、ロックオンはいつも皆のことを気にかけてくれる、トレミーでは皆の保護者のような存在だ。
いつも一人で行動し、仲間と群れることは好きでは無かったティエリアも、ロックオンの存在によって随分と変わったと自覚していた。
初めは鬱陶しいと思っていたその飄々とした態度も、仲間を思う気持ちも。

今ではそれが何となく心地よくて落ち着くから、ロックオンと会うことは嫌いではなかった。
寧ろロックオンを廊下や食事の際に見かけると嬉しいと感じるほどで、ティエリアはそんな気持ちを持て余していた。


「ありがとうございます…ロックオン」


ベストからふわんと香るロックオンの香りに、段々と緊張が解けていくのを感じて息を吐く。
ベストの首元についているふわふわした部分を指でなぞりながら、そういえば髪も少し伸びているなとぼんやり思う。


「操縦室に行って来ます。ベスト、ありがとう」


「いいよ、貸しとく」


そう言ってもらえたけど、なんだか申し訳ないから返すことにする。


「大丈夫です。では、またあとで」


そう言ってぺこりと一礼してから踵を返し、再び長い廊下を渡っていった。



綺麗だ、と。
背後で自分のベストをぎゅっと握ったロックオンが、小さな声で呟いたその言葉には気付かないまま。
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