*ガンダム00(そのに)*
□あなたに処方箋
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宇宙の、というかトレミーの内部温度はいつも一定値に設定されていて、暑くもなく寒くもない。
だからきっと、心地よいけれど人間には合わないのだろうと思う。
一定気温に慣れすぎた体は、地上の雪降る夜の寒さには耐えれなかったようだ。
久々に休暇を貰い墓参りに出掛けたは良いが、見事に風邪を引いてこの有り様だ。
完全に油断していた、と。
寒気がする熱い体を布団で包みながら、小さく咳をしてロックオンが呟いた。
*あなたに処方箋*
春には陽気に花が咲き、夏には強い日差しが降り注ぐ。
秋には綺麗な落ち葉を踏みしめ、冬には刺さるような寒さに震える。
そんな当たり前のことすら忘れそうになる。
この宇宙にそんなものは存在しない。
故郷の空から静かに降る雪や雨が好きだった。
少し高い所からはらはらと散る紅葉が好きだった。
今ここ、宇宙で降り注ぐのはデブリと…人の命、ばかりだ。
地上に優しく落ちる陽射しが恋しいと思った。
風邪をひくことすら本当に久しぶりで、忘れていた苦しさに咳を堪えて思わずむせる。
薄暗い部屋で天井を見つめ、何故だか言い様の無い寂しさが募った。
子供の頃風邪をひくと、必ず側に誰かがいてくれたことを思い出す。両親が…そして、弟が。
確かに俺は幸せだったんだと思う。
だって今、あの温かさがこんなにも懐かしくて切ない。
「あぁ…弱くなったもんだな、俺も」
熱い吐息と霞む意識の中で無理矢理目を閉じる。
ふと、部屋のドアが開く気配を感じる。
薄く目を開くと、暗闇に慣れきった瞳が部屋の片隅で小さく動く紫色を捉えた。
「…ティエリアか?」
そっと声を掛けると、それに気付いた様子でゆっくりと近付いてきた。
「ロックオン…起きていたのか」
起こさないようにと気遣ってくれていたのだろう。手には綺麗にたたまれたロックオンの着替えが握られていた。
「起きたとき、汗をかいているだろうと思って…」
少し罰が悪そうに口ごもるティエリアに自然と笑みが零れる。
人と深く関わろうとしないこの小さな体は、最近少しずつではあるが確実に変わってきている。
人間らしくなってきた、と言ったほうが正しいかもしれない。
こうやって風邪の仲間を気遣うことすら、以前の彼からすれば信じがたいような成長だと思う。