*ガンダム00(そのに)*

□ティエリアさんの恋人
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麗らかな春の日差しの中、大きな眼鏡をかちゃりと鳴らせてあくびをひとつする。
綺麗な濃紫の髪に、ワインレッドの大きな瞳。
その容姿と誰に対してもそっけなくて冷たい態度から「お人形さん」なんてあだ名がついているけれど、本人はまったく気にしていない。

国立マイスター高校3年G組ティエリア・アーデ(♀)

男からも女からも惚れられる存在だ。



*ティエリアさんの恋人*



「……ねむぃ……」


0時限目のホームルームは毎日本当に眠たくて、せめて1時間遅くしてくれと思う。
低血圧に加えて、昨日の晩読書で夜更かしをしてしまったことを後悔したって遅い。

重たい瞼が限界を訴え閉じてしまう寸前で、ガラっという扉の開く乾いた音が聞こえて目を開ける。


(ぁ、先生来た…)


「おーいお前ら席つけ〜」


颯爽と入ってきて軽い口調でそう告げたのは、我が3年G組の担任。
高い身長とふんわりとした栗色の髪。
その存在を確認した僕は、平然を装ってあくびなんかしてみるけれど、心臓がどくんどくんと鳴り出して焦ってしまう。



僕の担任は、こう言ってはなんだが格好良い。



「あっロックオンせんせーおっはよー」


クラスの皆が席に着き始めるのを横目に、ズレているわけでも無いのにかちゃりと眼鏡に触れる。
なんだかそわそわするのはいつものことだ。



「よく聞けお前ら。スメラギ校長からのミッションだ。今日はみんなで町内清掃〜!」


「「えぇ〜〜!」」


生徒達の嫌そうな声を聞きながら、ロックオン先生本人はとても楽しそうだ。

…さすがは体育会系。


この学校は国の指定によって建てられた、少し変わった学校で。

世界各国から、頭脳明晰な人物だけ集められたエリート学校。
日々習う事は政治経済が主だけど。
急に入ってくるスメラギ校長のミッションプランによって、僕らは色々な仕事をする。

今日は…ゴミ拾いか。
何でもアレハンドロ市長の頼みらしい、のだが。
ゴミ拾いと政治経済と何の関係があるのかと問いたいけれど。



僕達は、それこそゴミ拾いから他国への調査、場合によっては紛争抑止の為の交渉人なんてものまでこなす。

そして、どんなに小さなミッションも全力でこなすのが我らマイスター高校。
国ではマイスター達の知力介入だ、なんて言って重宝されているようだ。


「清掃、か…さぁてと、どいつから消そうか…なぁ、アレルヤ?」


「ふふ、そうだね。町はきちんと綺麗にしなきゃ、ねぇ、ハレルヤ」


隣の席の双子がなにやら物騒な会話をしている。
手にはブラックリストと書かれた小さな手帳らしきモノ。

ぼくはそれを見なかったふりをして立ち上がる。





「あ、ティエリア〜プリント持って行くの手伝ってくれ」



教室を出ようとした時、ロックオン先生に呼び止められてまたどきんと胸が鳴った。



「あ……はい」



ひとり、またひとりと教室を後にするクラスメイト達を見ながら、学級委員長で良かったと密かに思った。




だってロックオン先生が僕に用事を頼んでも、こうやって誰もいない教室で2人になったって……誰にも怪しまれないから。







明かりの消えた教室は、朝だと言うのになんだか薄暗くて冷たい。
教室で一人でいると寂しくなるのは、この独特の空気のせいだろうか。


…なんて考える余裕は、すぐに無くなってしまった。



「せんせ…ここ、教室っです…っ」

「大丈夫、もうみんな行って誰も入ってこないよ」


そう言って僕を優しく抱きしめる先生。




そう、僕と先生はこういう仲だ。
いわゆる恋仲……と言いたいけれど、正直どうなのか分からない。


抱きしめ合う、キスもする。
体だって、繋げてる。



けれどロックオン先生は、僕に一度も好きって言ってくれたことが無い。

(…遊んでるつもりなのかな)

そう思ってちくりと胸が痛くなる。



「ひっ…ぅ」


腰の辺りに感じる淡い痺れを誤魔化すように身を捩るけれど、わざと腰を撫でられてひくんと体が反応する。
ひどいと詰ってみても当の本人はいたって楽しそうだ。

「楽しそうですね…ロックオン先生」

睨み付けて皮肉交じりに問うてみる。
けれど

「あはは、ごめん、ティエリア」

そういって尚抱きしめてくるから敵わない。

敵うわけ、無い。

「せ、んせ…」

微笑んで小さなキスをくれる彼をどこか惚けて見つめる。


「…っと、そろそろ行かねえとまじで怪しまれるかもな」


そう言って小さくウインクする彼を子供みたいだと笑って、誰もいない教室を後にした。
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