*ガンダム00(そのに)*
□ただいま
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ラストミッションと名づけられた戦いは終わりを迎えた。
刹那とリボンズの戦いを見届けた後、すうと大きく深呼吸する。
(終わった、やっと…)
この戦いの果てに何が待つのかはまだ分からないけれど、世界は確実に一歩を踏み出した。
そしてその始まりである今日と言う日に、僕は自ら望んでヴェーダとなった。
(…さようなら、みんな)
目を閉じてみんなの顔を思い浮かべたら、自然と笑みが漏れた。
どうか元気でいてほしい、ずっとずっと、見守っているから。
そうして仲間達へと別れの言葉を呟いた後、ヴェーダになってからずっと感じていた存在に意識を集中させる。
皆が戦っている最中は意識を逸らされ朧にしか感じなかったその存在も、
こうやって穏やかな気持ちになるとはっきりとしたものへ変わっていってその存在を確信へと導いた。
そこには確かに「彼」がいた。
震える声を誤魔化すことも出来ずに、只お久しぶりですなんて告げてみる。
*ただいま*
「まったくお前は…無茶するんだからなあ」
背後から声が聞こえる。柔らかい低音が鼓膜を優しく揺らす。
その声を一秒でも聞き漏らしたくなくて耳を澄ませた。
遠くにいるのか、近くにいるのかさえ分からない。
分かるのは、確かにそこに彼がいることだけ。
「…大きな、お世話です。現にこうやってヴェーダとなることが出来ました」
精一杯の強がりでそう告げる。
沈黙が続くと今にも崩れてしまいそうだから、震える手のひらを握り締めた。
「まあ、そうだな…やっと会えた……ティエリア」
「…っ!!」
自分の名前を呼ぶその声を聞いて、熱いものが込み上げる。
その声も、その存在も、全てが懐かしくて愛おしい。
零れそうになる嗚咽を必死に耐えて振り返った。
「……ニール…っ」
ニール・ディランディ。
死んだはずの彼が、そこにいた。
自分と同じく肉体を無くした彼は、それでも何も変わらない姿で微笑んだ。
「ここに、いたんですね」
「ここにいたんじゃないさ、ずっとずっと、お前の傍にいたんだよ」
もう体は無いけどな、なんて言って苦笑する彼を、もう堪らずに抱きしめた。
懐かしい、あたたかい…
もう体温なんてものの無いはずのその存在は、けれどもとても温かい。
そして、こうやって力強く抱きしめ返してくれる。
「ニール…ニール」
何度も何度も名前を呼ぶ。会えなかった長い長い時間を埋めるみたいに、何度も。
「こうやってまた、ティエリアを抱きしめたかった」
お帰り、ティエリア。
と。
脳に直接響くその声に、涙が溢れて目を閉じる。
(ああ、やっと…やっと会えた…)
会いたかった…ずっと、ずっと。
彼が死んでから、心には大きな穴が開いた。
彼を想って何度泣いたかなんて数え切れない。
只苦しくて苦しくてどうしようもなかった。
彼に会う為ならいつ死んだって惜しくは無いとさえ思った。
…けれどそれじゃあ駄目だから。
そんなことをしても、きっとニールは喜んでなんてくれないって分かっていたから。
だから一人で生きていくことを選んだ。
ニールの仇を討つため、そして、世界の変革を見届けるために。
何よりも、自分自身の為に。
いつか僕の役目が終わった時には、ニールに会えるだろうって。
再び会える日のことを思うと、気が遠くなるほどの時間だって耐えることが出来ると思った。
(……ニールだ…)
そして今やっと、目の前に焦がれた相手がいる。
ゆらゆらと揺らめく液体の中で、境目も無いくらい抱き合った。
どこからが自分で
どこからが彼で
自分は存在しているのか
彼は存在しているのか
分からなかった。けれどもう、そんなことは全部どうでも良かった。
だって確かに今、自分はニールと抱き合っている。
ニールに抱きしめてもらってる。
自分にはもう、この温かさだけあればいい。
(あぁもうどうしよう…嬉しい)
「ニール…ねえ、嬉しい…」
「…ティエリア?」
「貴方に会えて…嬉しくてどうしようもなくて……涙、止まらないんです」
震える声で、それでも想いを吐き出した。
柄にも無くどきどきして、呂律の回らないままどうしよう、ねえどうしようなんて呟く。
「俺も、嬉しい…ティエリア」
そういってまたふわりと抱きしめてきた体は、さっきよりもまた熱くなっていて。
愛おしくて堪らない。
「…ただいま、ニール」
もう離さないで、ずっとずっと。
彼の頬に手を添えて、ゆっくりと口付ける。
数年前と変わらず甘い甘いそのキスに酔いしれて、
それが激しいものへと変わる前にもう一度だけただいまと呟いて目を閉じた。
*END*
ヴェーダとなったティエリアを待っていたのは、ずっとずっと会いたかった彼だった、というお話です。
拍手ありがとうございましたっ!(*^_^*)