*ガンダム00*
□カーディガンと指先
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いつもと同じ朝。
広くない白い天井も、前日に予めセットしておいた目覚ましが鳴る前に目が覚めるのも。
何も変わらない、同じ朝だった。
ベッドから半身を起こし、ひとつだけ大きく伸びをしてからベッドサイドに置いてあった眼鏡をかけたティエリア・アーデは、けれどもいつもとは決定的に違うその変化に気付いて思わず口元を押さえた。
「………え…?」
大きな瞳をさらに大きく見開いて、まじまじと見詰めた先は、自分の胸元。
「……何故…こんなものが…」
そこには、男性にはあるべくも無いふくよかな胸。
ティエリアの少し大きめの寝巻きを押し上げて、ボタンの隙間からその存在を覗かせているそれに、声を上げそうになるのを何とか耐えて俯いた。
*カーディガンと指先*
…これは夢?
そういえば体がだるい。
頭が痛い。
朝起きたら自分が女になっていた、なんて。
ヴェーダに報告しても回答が得られない。なんて非常識な事態。
胸だけが大きくなったのかとも思ったが、恐る恐る覗いた下半身にも変化が見られて項垂れる。
「あぁ…だるい…」
はじめは酷く混乱して意味も無く部屋を歩いてみたりもしたけれど、どんなに考えても答えは出ない。
何だかもう考えることに疲れてしまって、ため息を吐いてベッドに腰かけた。
(…まあ……何れ元に戻るだろう)
自分が人間で無い事は重々承知しているが、まさか性別まで変化する生命体であるなんて思ってもいないし有り得ないことだ。
けれど、起こってしまったものは仕方が無い。
まあ何とかなるだろう、治らなければ治らなかった時のことだと思うことにして、再び腰かけていたベッドに寝転がった。
「しかし…女という生き物はこんなにも大きなものをいつも抱えて生活しているんだな…」
元々セクシャルなものにあまり関心が無いティエリアが女体を(それも自分の)見たところで興奮するはずも無く、只胸の邪魔さとこれを抱えて生活する女性達に感心しながら一人でうんうんと頷く。
宇宙だと重力が存在しないのでそれほど苦にもならないだろうが、きっと地上だと重たいのだろうなと考えてため息を吐く。
「地上だと肩がこってしまいそ…んっぁ…!」
何気なく触れた自分の胸から電流が走ったみたいな快感が生まれて困惑する。
自分の出した声が信じられなくて、思わず真っ赤になって首を振った。
(す、スメラギ李ノリエガに相談してみよう…)
彼女が自分の体を元に戻せるとは思わないが、胸を保護するものを貸して貰うくらいは出来るだろうと思った。
そうと決まれば早速スメラギの元へ行くのみだと、寝巻きにカーディガンを羽織った格好で部屋を出た。
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「…まあティエリアどうしちゃったのそれ!?」
スメラギの部屋へと一直線に向かったティエリアは、扉を開けた瞬間に予想通りの反応を返してきた彼女に苦笑して頷く。
「何故だか分からないけど目覚めたらこうなっていました」
だから下着を貸してくださいと。抑揚の無い声で淡々と話したら、まじまじと見詰められる。
「ほんと、不思議なこともあるものね〜」
「…まあ、なったものは仕方が無いので」
治し方が分からない以上、戸惑っていても仕方が無い。
本当は少し(いや、かなり)この体を見られるのには抵抗があったし恥ずかしいのだけど、いつまでも隠し通せるものでもないからと意を決して部屋を出てきたのだ。
スメラギの部屋までに、どうか誰にも会いませんようにと小さく祈ったことは秘密である。
「了解、分かったわ!取り敢えず下着をなんとかしないとね」
肩をぽんぽんと叩かれて初めて、自分がとても緊張していたことに気付く。
「一人で不安だったでしょう?大丈夫、そのうちなんとかなるわ」
万が一戻らなくたっていいじゃない、とても綺麗よと、小さくウインクをする彼女に思わず笑みが零れる。
戦術予報士の気質からか、それとも生粋の世話焼きなのか。とにかくスメラギはみんなの体調や感情の変化にとても敏感なのだ。
どんなに繕っても、悲しいときは慰めてくれ、元気が無いときはそっと声をかけてくれる。
「…ありがとう」
小さく礼を言うと、スメラギが少し驚いたような顔をした後にこやかに笑った。