*涼宮ハルヒ*

□あめあがる
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梅雨もとっくに過ぎ去り、そろそろ本格的な夏が来ようかと言う8月の始まり。
突如聞こえた小さな雨音に耳をすませ、帰りかけた足が止まる。

すんと香る雨の匂いに、靴箱に靴を入れようとする動作のまま固まってお互い目を合わす。




*あめあがる*




「…雨だな」


気だるそうに呟いて空を仰ぎ見る彼が溜息をひとつ吐いた。

その溜息ひとつで、空から音もなく降る彼らが嫌いになる僕は本当に単純だと思う。


彼が憂鬱になる原因なんて、この世から消えて無くなってしまえと。



「…生憎、傘を持ち合わせていません…借りてきます、少しお待ちくださいね」


にこりと笑ってキョンくんを見る。ふたりで帰ると約束した今日だから、早く帰って触れ合いたいと気持ちが焦る。



「…いいよ。少し待ったら上がるかもだろ?」


けれどもそう言って再び空を見上げるキョン君に曖昧な笑みを返す。


「…そうですね、少し…待ちましょうか」


どこでだって、貴方と一緒にいるのだから問題はない、幸せなはずだ。
隣でいてくれるだけで、充分なはず。


なのにもっともっとと求めてしまう自分を恥じる。



上履きを履き直してから、そろりとキョンくんの髪を撫でた。


「ごめんなさい、キョンくん」


「んっ…何がだ?」


触れた髪は湿気を含んでふわりと香る。少し恥ずかしそうに見上げるキョンくんに目を細める。



白い肌がほわりと薄く色づく。
可愛くて、綺麗。

そっと伸ばした指先を嫌がらずに迎えてくれるキョンくんに、少しだけホッとする。


しっとりと濡れた唇の感触を楽しむ。親指の腹でゆるりと形をなぞると、ぴくんと跳ねた体に笑みが零れた。


「こい…ずみっ…」


ああ、たべてしまいたい、この場ですぐに。
そう思うけれどすぐに否定した。
赤い顔のあなたを困らせたくはない。こんな無粋な欲で、汚したくはない。



「あ、雨…強くなったな」


「…そうですね…」


少しだけ沈黙が流れる。冷たくなった手に優しくキスを落とすと、一度ぎゅうと目を閉じたキョン君が、ふいと横を向いた。

しまった、やりすぎたか。
そう思ってすぐに手を離すと


「雨が止むの……まてなく、なるだろ」


なんて。



「…キョンくん…」


どきんどきんと心臓の音が早くなる。嬉しい、って言ってる。




心臓の音、おんなじはやさ。





「っぁ…こいずみ…待っ…」


赤いネクタイに手をかけると、細い指が遮る。
指を絡めて、唇にキスを。


「…大丈夫、雨が消してくれます」




雨があがるまで、あと少しだけ。






*END*

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