*涼宮ハルヒ*
□その10分間の延長法
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色んな事件が起こった後は特に、何も起きない日をひどく幸せに感じたりする。
そしてその幸せが少しでも長く続きますようにって、誰に言うでもなくそっと祈ってみる。
例えばいつもの帰り道。
毎日歩いているそのお決まりの道を、出来るだけゆっくり歩く。
僕の週に5回の密かな楽しみ、帰り道という名のデートコース。早足で歩けばすぐにでも着いてしまいそうなその距離を、なるべくゆっくりゆっくりと歩く。
かといって隣で歩く彼が不審に思わない程度の速度でなければならない。
「僕は歩くのが遅いので…すみません」
なんてもちろん嘘。
「もう少し一緒にいたいからゆっくり歩いています」だなんて、そんなことを言うときっと彼は照れ隠しに怒ったりなんかするんだろうから。
それだけならまだしも「もうお前とは帰らない」なんて突っぱねられたら悲しいので、これは僕だけの密かな楽しみのままに留まっている。
まあどんなに僕が頑張ってゆっくり歩いたところで、せいぜい通常帰宅時間の10分程度しか延長は出来ないけれど。
しかも10分延ばしたところで、家に着いた頃にはやっぱり「まだ離れたくない」と感じている僕がいるんだけど。
*その10分間の延長法*
「あなたが好きなんです」
と、キョン君に告げたのはちょうど3ヶ月前。
張り裂けそうになる寸前で吐き出した気持ちは、不器用な愛情で優しく受け止められた。
それ以来、僕の彼に対する気持ちは止まるどころか日に日に深くなるばかりだ。
僕の隣で白い息を面白がって吐きだす彼に見とれる。
「夏が終わったと思えばもう冬だ…早いよなまったく」
秋が短すぎるぞ、おかしい。
と愚痴る彼が微笑ましい。
愚痴りながらも白い息と冷たい空気を楽しんでいる様子で
「綺麗だなー」
なんて言うから、その一言でまた胸が温かくなった。