*ガンダム00*

□カーディガンと指先
6ページ/7ページ

「ろっく…お、ん……」


夢中でティエリアにキスをしていたら、苦しそうな声で名前を呼ばれてはっとする。

「ご、ごめん…苦しかったか?」

荒い息を吐きながら、少し涙の溜まった瞳で見上げられて、またひとつどきりとする。


「ちが…でも……なぜ、こんな…」


そこまで口にしたあと、唇を震わせて俯いてしまった。
抱きとめられたかと思うといきなりキスをされて、混乱するなと言うほうが間違っている。ロックオンは堪え切れなかった自分を恥じた。


「ごめん…ごめんな?ティエリアが…綺麗だったから…つい…」


儚げな姿を見たらついキスしてしまいました、だなんて。


(一時の気の迷いなら、まだ良かったのかもしれないんだが…)

生憎ティエリアがこんな状態になってしまう前からずっと、ロックオンはティエリアの細い体を抱きしめて、自分だけのものにしたいと思っていたのだから質が悪い。

それでもずっと口に出さないまま今まで耐えてきたのだ。こんな状態のティエリアを見て、込みあがる衝動を止められるはずも無かった。


(止まる訳、無い…)


それでも一方的過ぎるキスはティエリアにとっては恐怖だったのだろう、かくかくと足を震わせて、尚俯く姿に後悔ばかり募ってどうしようもない。


「ごめん…もうしないから…部屋に戻って、ゆっくり休め……ごめんな?」


そう言ってティエリアの部屋のドアへと向かう




けれど



「…っロックオン…」



意を決したみたいにきゅ、とカーディガンの裾をを握り締めながら、震える唇で呼ばれた名前。振り向きティエリアを見て、驚く。

そこには、涙で瞳を潤ませて、けれども頬を赤く染めてロックオンを見詰めるティエリア。

「…ティエリア…」


呼ばれてどくんと跳ねる体。口を数回ぱくぱくさせて、言いよどんだ言葉がその綺麗な唇から零れ落ちるまで、しばらくの時間を要したけれど。



「…ほんと、ですか?」


「…え?」




「…っ……きれいって、ほんと?」


目線を壁に向けたまま、尚恥ずかしそうにカーディガンを握り締めるティエリア。


ああやっぱり、きれい。


「…ああ、本当だよ…誰よりも、綺麗」


そう言って笑ったら、つられたみたいに小さく微笑むから、傍に行ってもう一度優しく抱きしめた。


「…ロックオンが、そう言ってくれるのなら…女のままで、良いです」


きゅうと小さな力で抱き返されて思わず笑みが漏れる。


「でも俺は普段のティエリアも充分綺麗だと思うぞ…それに」


「…それに?」


そこまで言って止めた言葉に首を傾げる仕草のティエリア。その小さくて形の良い頭を撫でて、言葉を繋げる。


「それに、女の姿だったら何だかクルーの目が怪しい…特に…アレルヤ」


そう言うと、一層真っ赤になって俯くティエリアを見て、自覚はあったのだと気付く。


「そんなこと…ありませんっ」


必死に否定する姿が可愛いけれど、益々放っては置けないという気持ちが膨れてどうしようもない。

「まあ、元に戻るまでは俺がしっかりと世話するから、安心して暮らしていけばいい…戻らなければ…」


「も、戻らなければ…?」

そう言ってもう一度強くぎゅうと抱きしめた後、とっておきの言葉をほんのり赤い耳元へ落としてあげることにする。




「戻らなければ…お嫁においで」



その言葉に、ずっとティエリアの瞳に留まっていた涙がついにぽろりと零れて慌てて拭う。
消え入りそうな声で小さく小さく肯定の言葉を口にしたティエリアに、どうしようもなく胸が熱くなる。
同時に、この存在を一生守っていこうと小さく決意して大きな廊下を後にした。



*END*
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ