*ガンダム00*

□カーディガンと指先
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「ロックオン、驚かないで聞いてね」


ティエリアが女の子になっちゃったの。



そんな有り得ないことをミススメラギに言われたのは、ちょうど30分ほど前。
いつもと大体同じ時間に起きて、顔を洗って着替え終わったと同時に自室に訪れたスメラギは、少し難しい顔をして不可思議なことを喋り出した。


「ちょっと待ってくれ…ティエリアが…おんな?」


超一流の戦術予報士が一体何の冗談だと笑ってしまいそうになったが、本人に会えば分かるわ、と言われて嘘ではないことが分かる。


「何故いきなりそんな…」


「原因は分からない…本人も分からないと言っていたわ」


不思議なこともあるものね、と腕を組んで悩んでいる様子の彼女をよそに、ロックオンの頭の中はティエリアは大丈夫だろうか、ということでいっぱいだった。

ティエリアは人間ではない。それは薄々感づいていたけれど、まさか性別まで変わってしまう生命体なのだろうかと首を傾げる。
しかしどちらにせよティエリア自身が原因が分からないらしいということは、治るかどうかも定かではないということだ。

きっと今、ティエリアはとても悩んでいるはずだ。



(あいつ…ただでさえ抱え込むタイプなのに…)


「とにかく、今一番混乱しているのはティエリア自身だと思うから、なるべく刺激するようなことは言っちゃ駄目よ」


そう言われて、真剣な顔で頷いた後、ティエリアに会ってくると言い残して廊下を走った。



「…ロックオン!ティエリアを…頼んだわ!」


そう背後で叫ぶスメラギに、片手を挙げることで応えた。






ティエリアの部屋へと続く廊下で、ゆっくりとした足取りでコックピットへ向かう人影を見つける。
見慣れたピンク色のカーディガンを羽織ったその小さな体は、コックピットへ行こうか否か迷うようにその場に佇んではまた歩きを繰り返していて、何だか胸が痛くなった。


「…ティエリア!」


名前を呼ぶとびくりと肩を震わせる仕草で、やはりスメラギの言ったことは真実だったのだなと理解した。
よく見れば紫色の綺麗な髪も肩より少し伸びていて、体も一回りほど小さくなっている。


振り向かないままおはようございますと告げるその仕草に、思わず抱きしめたくなるのをぐっとこらえて拳を握る。
けれどもカーディガンをぎゅうと握って恥ずかしそうにこちらを向くティエリアを見て、とうとう理性が崩れるのではないかという衝撃が走った。




「……まいった…」



思わず口に出してしまった言葉にさえ気付かないほど、ロックオンは動揺していた。

ティエリアが困っているだろう、落ち込んでいないだろうか、そんなことばかり気になっていて、すっかり忘れていたこと。


(……綺麗…)



それは、ティエリアがとても綺麗で、抱きしめたくなるような存在であること。
普段男性であった時でさえとても綺麗で華奢だったその体が…女になったら一体どれだけ綺麗になるのか、ということを。



こうやってティエリアと向き合って初めて思い出し、同時に胸がどきんと鳴った。
伏し目がちでしょぼんと項垂れるその体に触れたくなるのをどうにか我慢して、ティエリアにベストを着せる。


少しだけだるそうで熱もある様子のティエリアを見て、あとでスメラギに薬を貰おうと思い立つ。



「くれぐれも無理はするなよ?体の構造もパワーも、男と女では別物だからな」


そう言ってベストの前を合わせてやると、少し嬉しそうに微笑むティエリア。少し顔を赤くして、それでもやはり伏し目がちに俯く彼(彼女)が、ありがとうと呟いた。


操縦室に行くと行ってベストを返してくるティエリアに、何故だか分からない焦燥感に駆られて目を閉じる。


(ああ、そうか…俺はきっと……見せたくないんだな)



女になったティエリアを、他のクルーに見せたくないと思ったのだ。不謹慎だということは重々承知しているし、ティエリアに申し訳ないという気持ちで後ろめたかった、けれど。



「まいった…ほんと……綺麗だ…」



けれど確かに、ロックオンはティエリアを綺麗だと思った。とても。
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