*涼宮ハルヒ*
□その10分間の延長法
4ページ/5ページ
小さな缶コーヒーで暖を取りながら、自動販売機に凭れ掛かる。隣で彼がくしゅんと小さくくしゃみをした。
「大丈夫ですか?風邪をひいては大変です。」
そういって、ぼくのマフラーを彼に巻いてあげる。キョン君は遠慮しながらも最後は大人しく「さんきゅ」と呟いた。
寒いのかな、早く帰ったほうがいいんじゃないのかな。
少し延びたデートを嬉しく思う気持ちと、キョン君に寒い思いをして欲しくないという気持ちが頭の中で交差する。
平気だ、なんて言いながらきっと凄く寒いのだろう。小さく震える彼を見て帰ることを決意する僕。
「寒いですよね…帰りましょうキョン君、ね?」
「あ、あぁ…これ、飲んだらな。」
そういって持っている缶を揺らすキョン君。
ちゃぽんという音を立てて存在を示した液体は、きっともう残りは少ないのだろう、キョン君の手を温める力は残っていないみたいで。
キョン君の手が、震えている。
やっぱり早く帰らないと…家はすぐそこだし、帰ってお風呂にでも入ればすぐに暖かくなれる。
…ん?
そこで、ふと思う。
温かい飲み物なら、家にある。
キョンくんの家はもうすぐそこで…明かりも見えていて。
それなのに、わざわざ寒い外の自動販売機なんかで飲み物を買う、ということは…
期待してもいいのだろうか
自惚れても…いいだろうか
キョン君も、離れたくないと思ってくれているんだと。
所在無さげに缶の中の液体を揺らしながら、その最後の一口を飲むことを躊躇っている横顔に愛しさが込み上げてくる。