短編2[BL]

□しんネネ
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しん+ネネ



ネネの愛したものは此処にはないのです。


「しんちゃん、ネネ昨日ね…しいぞう先生を見かけたのよ」

「…ほうほう。どうだった?ネネちゃん」

「どうって?」

「一度、好きになった人は、なかなか忘れられないでしょ?」

「それって、しんちゃん。まさか自分のことを言ってるの?」

「…違うぞ」


しんちゃんの声音は少し乾燥したような後悔を押し殺したときに似た酷くしゃがれたものだった

(ネネ達の初恋は互いに成就するような恋ではなかったけれど…でも。だからこそかしら)

はじめて誰かを好きになった、あの気持ちは思い出ばかりを綺麗にさせる


「もしも…もしも、だぞ?しいぞう先生が今、ネネちゃんの目の前に現れたらどうするの」

「…しんちゃんは、ネネに…どうしてほしい?」

「俺はネネちゃんが幸せになるなら、どうなってもいいと思うぞ」

「…なにそれ」

悲しくも残酷な宣告とは裏腹に、ネネに語りかける、しんのすけの口調はとても穏やかで、とても優しいものだった。

いっそのこと、ネネが失望してしまうくらい酷い男になってくれたらと、今もそんな無謀な思惟を馳せている。

しんのすけにとって、ネネの存在は幼馴染であり、親友であり、誰よりも絶対的な存在なのだろうが。けれど言えばそれだけの認識だ。


(しんちゃんにとって、ネネはきっと恋愛をする対象ではないのだろう。分かっているのに、一度でいいから愛されたいと願ってしまう)


「ネネが幸せになるまで…しんちゃん、ずっと傍にいてくれるの?」

「いいぞ」

「ふふ、一生かもしれないのに?」

「それでもいいぞ」

「っ、どう…して?しんちゃんが、ネネを幸せにしてくれたらそれでいいのに。遠回りするの」

ネネの眼球には薄っすらとした独占欲に隠れた涙の色がみえている。

けれど縁を越えて零れ落ちそうなその雫のかたまりは一線を越えないようにと、今もユラユラと輝いていた。


「ネネは…ただ、しんちゃんの彼女になりたいだけなのよ」

「…ごめんね?ネネちゃんには遠くに、手の届かない位置にいてほしい」

「身勝手だわ」

「そうだぞ。それでも、ネネちゃんを失うよりは、ずっといい」

眉をくしゃり、と歪ませるしんのすけの表情に胸が震える。

本音を言えば涙のひとつでもネネが我慢せず落としてしまえば、あっさりと彼は首を縦にふるかもしれないと考えた。

(けれど、だけど)


「しんちゃんは、幸せにならないの?」

「…俺の幸せは今、こうしていることだぞ」

「うそつき」


悲しい未来を想像しただけで泣いてしまえるネネはきっと一番、苦しい「恋」の形をしているのかもしれない。

end.

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