短編2[BL]

□指切り
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「嘘だぞ。一緒に帰るでしょ、あいちゃん」

「…しん様?」

クラスメイトからの羨望の眼差しを背中に受けつつも、あいちゃんの腕を少し強引に掴み靴箱まで歩きだした。

そこら辺のアイドルよりも可愛ければ、これくらいの嫉妬はされて当然かもしれない。

(…そんなことにすら迷惑していると言えば、あいちゃんはきっと傷つくのに…俺の前では綺麗に笑うんだろうなぁ)


「そう言えば黒磯さんは?車で来てるなら、そこまで送るけど」

「今日は黙って…来ましたの。怒りました?」

「怒らないぞ。でも今頃、血眼になってあいちゃんのこと捜してるでしょ。黒磯さん」

「あいも、しん様の学校に転入したいですわ」

「…そんなこと言っちゃ駄目だぞ。周りを困らせるだけでしょ」

「しん様が?」

「俺も、黒磯さんも、あいちゃんの家族も…みんなが困るの」


そう言えば、あいちゃんはやっぱり笑った。俺の言葉に、ひどく傷ついているくせにね。

(それでも俺が好きだと言えるだろうか。俺は知っているんだぞ)

あいちゃんは人でも物でも何でも欲しいものは必ず手に入れようとする。

そもそも、今まで手に入らなかったものなんてないだろうし。

でも、だからこそ手に入れてしまった途端、あっさり飽きちゃうような気がしたのだ。

今までずっと俺の事が好きだったとしても、その答えに返事をしてしまったら今度こそ、傷つくのは俺になる。


「しん様、やっぱり女性の方に人気なのですわね。妬けますわ」

「…そんなことないぞ。知ってる?俺のクラスにあいちゃんのこと好きな奴がいるの」

「ええ。でも、あいはしん様が好きですの」

「…そんなこと訊いてないでしょ。あいちゃん」

「でも、あいは好きですのよ。しん様が…どうして信じてくれませんの」


繋いでいた手を離された。こんなことは初めてで振り向けば笑っていると思っていた瞳からボロボロと涙が零れ落ちている

どんな泣き方をしていても…あいちゃんはいつだって綺麗に見えた。

これがネネちゃんや他の女の子相手だったなら涙を止める対処の方法なんていくらでも存在していただろうに。

珍しくも慌てている自分自身に驚きながらも、しんのすけはあいの肩を掴んで保健室の扉まで辿り着くと溜息を吐いた。

入り口には四角いプレートが掛かっていて、そこには外出中とマジックで書いてある。


「あいは、しん様が好きなのに…愛しているのに。どうしてですの」

「わ、分かったぞ!ほら、あいちゃん。ちょっと帰る前に休憩しょう」


入るかどうか迷ったが、誰も居ないのならそれはそれで好都合だった。

保健室の窓は全開になっていて白いカーテンがフラフラと小刻みに風の力によって揺れている。

念のため、ベッドを仕切るためのカーテンを端から全て覗き見たが誰もいなかった。

設置されている丸椅子に腰掛けながら、あいちゃんに視線を戻す。

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