短編2[BL]
□愛することの難しさ
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「あいちゃんを、ななこおねいさんの身代わりには…できないぞ」
「…あいでは…あの女性の代わりにはなれませんの?」
「代わりとか…そんなことじゃないぞ。だって、あいちゃんはやっぱりあいちゃんでしょ」
ななこがずっと好きだったしんのすけにとって片想いがどれほど辛いか、よく理解していたしこんな感情は自分だけでいいと思っていた。
なのに、どうして今こんな不毛な行為を続けようとしているのか。
互いに違う人を好きになれたら、或いはこんな感情に意味などなければ良かったのかもしれない。
「しん様が…あいを好きじゃなくても、あいはしん様を愛していますわ」
「そんなこと言っちゃ駄目だぞ。これ以上、あいちゃんに甘えたら…俺」
「でしたら、しん様は誰に甘えるの?」
「…それは、」
「ねぇ、しん様。あいだって今、しん様に甘えていますのよ」
ベッドの上には裸の男女。これが恋人同士の会話だったのなら、こんなに幸せなことはない。
恥ずかしい部分は、既に心の奥までも曝け出している。もう暴かれて困るものなんて、なにひとつないのだろうに。
「あいちゃん」
「…しん、様」
真上から、あいを見下ろしていたしんのすけが頬に頬を寄せながら、ただ小さく呟いた。
あいの前髪を、かき上げていた指先が止まり、しんのすけの唇があいの目尻に触れ落ちる。
頬に唇に、啄むようなキスはどこからが好意で、どこまでが愛情の境目なのだろうか。
「しん様、いつかは…あいだけを好きになって」
「…俺が好きになる前に、あいちゃんは俺に幻滅してると思うぞ」
「幻滅なんて、そんなことありえませんわ」
「ありえないことこそ、ありえないぞ?でも、あいちゃんがそう思うなら信じてみる」
「…しん様、はじめて…あいのこと信用してくれますのね」
「そんなことないぞ」
「あら、自覚がないのって罪だと言いますのよ」
腕を伸ばしたあいの指先が、しんのすけの頬を優しく撫でる。
今度はその手をとってしんのすけが、あいの手のひらにそっと口づけた。
いつか、また誰かを本気で好きになることができるのだろうか。
(…そんなことは誰にも分からないぞ。だけど、もしも。例えばの話。そんな日が来るとしたら)
「しん様、あいは…ずっと貴方の傍にいますわ」
「…ありがとう、あいちゃん」
今度こそ、彼女を心から愛してあげようと思う。
end.