短編2[BL]

□Who do you I like?
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「どうもしないぞ。ただ、お菓子作りすぎたって言うから…捨てたら勿体ないでしょ?」

「そんなの別に、お前じゃなくてもいいだろ!わざわざ…電話で話すようなことか?」

力任せにテーブルを叩くと、その中央に飾ってあった花瓶が見事に倒れてしまい食卓の上には水溜りができた。

早く拭かなければと思うのに動くこともできない。しんのすけはそんな僕に眉を顰めている。


「風間くん?」

「…お菓子だって…ただの口実だろ。お前に会いたいだけなんだよ」

「それは…ななこおねいさんは俺を弟みたいに可愛がってくれてるから」

「そんなわけないだろ。メールで済ませられる内容も…いつも今日みたいに電話じゃないか」


しんのすけが僕のことを誰よりも尊重してくれるのは知っていた。

だからこそ僕の前では彼女の話題を避けていることくらい分かっている。

(…いや、ななこさんだけではない。しんのすけは交際していた女性のことを誰ひとり、僕には語ろうとはしない)

料理の上手な人、ななこさん似の優しい人、美しい人、沢山の女性が存在していただろうに。

その全てに嫉妬するほど暇ではないし。僕にだって短いながらも付き合いはある。それをしんのすけは咎めたりはしない。


「でも、今…お前の目の前にいるのは僕だ。僕を優先しろよ」

「…風間くん」

「できないなら別れる。別れて…僕は一生、ひとりで生きていくんだ」

食卓の上に並んでいた食べかけのトーストとサラダ、ベーコンエッグの皿を手早く重ね、それをキッチンまで運ぶ。

蛇口からどばどばと溢れてくる水を眺めているとしんのすけが僕に近寄ってくるのが分かった。


「…風間くん、俺が傍にいないと生きていけないでしょ?」

「うるさい」

「風間君が嫌なら、もう…ななこおねいさんには会わないぞ」

「…嘘だ」

「嘘じゃないぞ。ねぇ、大好きだぞ。風間くん」

「…しんのすけ」

(お前は本当にそれでいいのか。だけど、どんな理不尽な関係になったとしても僕は、お前を捨てることはできない)

衝動のまま握った指先を、しんのすけは自分の口元に近づけて手の甲に唇をつけた。

女性が喜びそうなことをするのが得意だな、と思う反面こんなことしかできないしんのすけを不器用だとすら思える。


「僕だけを…愛してくれ。…だから約束、しろ。しんのすけ」

「…うん、分かってるぞ。風間くん」


しんのすけは珍しく僕の前で一筋の涙をこぼし、でも表情だけは笑っているからそれが、あまりにも綺麗で。

何だか今日だけは、ふたりして学校をサボる算段を考えてしまった。


end.
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