flat[BL]

□口に含んだ
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※結婚/死ネタ/狂愛





平介が誰よりも好きで、俺の隣で笑ってくれたらさ、それだけで嬉しかったから。

だから、俺も平介の前では一生懸命、笑うことにしたんだ。


「まさか平介が結婚するなんてさ、ちょっと意外だったなぁ」

「んー、あー…まー。でも結婚も当たり前のことと思ったら、なんか」

「なんか?」

「幸せのひとつ…みたいな。それが妙にストンとはまってさ」

「…そっかぁ」

(でも平介に結婚なんて不似合いだよって言ったらどんな顔をするのかな)

想像しては期待して、でも結局はそんな残酷な言葉、言えるわけもなく。


「平介のお嫁さん、可愛いもんね!」

「…いやぁ、普通だと思うけどなぁ」

「ははは」なんて表情だけは笑顔で心の中は誰よりもドロドロだ。

だって何度か会ったことがあるけれど今も、顔が思い出せないんだよ。

可愛い、なんて嘘。はやく別れてしまえばいいとばかり願っている。

(あの髪も唇も睫毛も瞳も耳も全部。平介の全てが俺のモノだったのに)

それすら他人が土足で踏み荒らしていくのかと思うと寒気がするんだ。

いっそ結婚式当日に平介を連れ去って逃げても良かったし。

何もかも壊してしまえたらこんな気持ちには、ならなかっただろうに。

「まー、あれですよ。幸せなら幸せなほうがいいよねって話さー」

「平介らしい」

「うん、だからさ…佐藤も幸せになってよ」


平介は、いつもそうだ。たまに俺の気持ちを全て見透かしているんではないかと思う時がある。

(…ずるい男になったね。こんなにも愛しているのに、もしかして知っていて俺を優しく傷つけているの?ねぇ、平介)

でも平介が俺の隣で笑ってくれたらさ、それだけで嬉しかったから。

だから俺も平介の前では一生懸命、笑うことにしたんだよ。ねぇ。




「…平介、」

あれから数十年。平介が死んで俺も鈴木も人前で泣くには随分と、歳をとりすぎていた。

(お互いに、よぼよぼのおじいさんになって…でも棺桶の中で眠っている平介だけは時間が止まったままに思える)

ああ、でも骨だけになった親友は俺の気持ちも知らず美しいまま…ただ真っ白な骨と灰の塊。

でも、だからこそ。


「…やっと、全部オレのモノになったね。平介」

俺は平介の骨の欠片をそっと口に含んで言った。

平介だったソレをボリボリと飴のように噛み砕くと、それだけで満たされていくのが分かる。

(…甘いなぁ。やっぱり平介って骨も砂糖で、できていたんだ)

それとも俺が食べやすいように準備していたの?ね、平介。

幸せになる最後まで平介の前では一生懸命、笑うことにしたんだよ、俺。

end.

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