企画べや!
□しん風しん
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しん風しん/リバ
5月5日
海から流れる風はまだ少しだけ冷たくて足元に広がる砂はどことなく懐かしさを感じさせていた
How does it feel to be 17?
「しんのすけ、慌てて落とすなよ。お前」
「おお!やっぱり海と言えばこれですなぁ」
僕は少し離れた売店で買った冷たいアイスクリームをふたつ。
それをビニール袋に詰め込むと砂浜で、どでかい山を作るしんのすけの隣に腰を下ろした。
売店でこれでもかと言うほど冷やされたアイスは驚くほどに冷たいが口に入れてしまえば関係ない
「風間君ってば幸せそうな顔して食べますなぁ」
「…っ、それは!お前もそうだろ、しんのすけ」
「そうとも言う…俺も幸せだぞ。風間君」
しんのすけは無邪気に笑った。口に溶けて転がされた言葉のように、胸の中はじわりと焼け焦げるように熱くなる。
どうして海に来たのか分からない。ただ、こうして電車に乗り此処まで遠出するのは久しぶりだった気がするのだ。
もう何年も、こうしてふたりだけの時間を作ってこなかったように思える。高校も別になれば互いに知らない友人も増えていく。
遊ぶとしても防衛隊のみんなで集まることが多かったし。別に防衛隊の皆が嫌いなわけじゃない
(…ただ、本当に。しんのすけと、こうしてふたりだけで過ごす時間が極端に減ってしまっただけなんだ)
「お前は…昔から何も変わらないな」
「はは。嫌だなぁ…だって俺が変わったら風間君、嫌でしょ?」
「なんだよ、それ。僕の為だとか言うつもりか」
「まかさ」
「それを言うなら、まさか…だろ」
「そうとも言う」
しんのすけは立ち上がり、靴を砂浜に放り投げるとズボンを巻き上げた。穏やかな海風が風間の髪を揺らしている。
(しんのすけは何も変わらない。いや、変わったことに僕だけが気づいていないだけなのかもしれないけれど)
風間は海ではなく、ましてや目の前のアイスでもなく。しんのすけだけを見つめていた。ただ、そうすることしかできなかったのかもしれない。
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