企画べや!
□しんネネ
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もうすぐしたら日付が変わるだろう時刻でも住宅街を抜ければ街灯と、少しだけ眩しい月明かり。
足を止め、少しうつむき気味で声を震わせているネネにしんのすけはゆっくりと振り向いた。
長く細いまつげが、瞼の上で揺れている。だが繋いだ手は温かく小さな声は悲しさを含んでいるような気がした。
「ネネは、しんちゃんとこうしているとドキドキするわ」
「…俺だって、胸がドキドキしてるぞ」
「嘘。女の子なら誰でもいいくせに」
「誰でもってことはないぞ…ネネちゃん、こっち向いて」
「…や、やだ!」
「我儘ですなぁ」
ぼんやりとした暗い空。心臓の鼓動と互いの呼吸する息の音しか聞こえないくらい静かな夜。
しんのすけから目を逸らすように地面に視線を投げたネネは、彼が珍しく緊張していることに気付きもしないでいる。
「ネネちゃん。こんな時間に、どうして俺を待ち伏せてたの」
「…しんちゃんに…会いたかったの」
「どして?」
「だ、だって」
バッと顔をあげた、ネネの瞳には吸い寄せられるくらい大粒の涙が光ってみえた。まるで、キラキラした宝石のようだ。
ネネの言葉は明らかに友情のそれではなかったし溢れる愛は落ち着きなくボタボタと落ちていく。
「…誕生日」
「誕生日?」
「しんちゃん…お誕生日…おめでとう」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。だが突然、鳴り響く着信音に受信メールはどれも今日を祝う言葉ばかり。
(ああ、そうか。いま、日付が変わって…今日は…俺の誕生日)
「…って。もしかして、ネネちゃん」
「うん。電話でもメールでもなくてね、会って一番に伝えたかったのよ」
ネネはその目を悪戯っぽく眇めて小さく笑った。
さらりと風に流れる髪に指を絡めると吸い寄せられるように小さな唇に自分の口を重ね合わせる。
「…ネネちゃん、大好きだぞ…ほんとうに」
「ネネもしんちゃんが…好き。大好きよ」
柔らかい皮膚の感触と湿った息の温度が胸の裏側までをも震わせるような。或いは今までもそうであったかのような。
ぱちぱちと何度か瞬きを繰り返す瞳を覗き込み、しんのすけは小さく笑うネネの口にもう一度、唇を落とす。
「しんちゃん、お誕生日おめでとう!」
end.