短編2[BL]

□僕達の場合
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「おお、風間君?」

「…っ!しんのすけ」

「え?風間君とこの子、友達なの?」

絶対に見つかりたくはなかったのに、どうしてこうも目聡いのだろうか。隠れようにも自分より低い背の女の子を前に、それはできない。

何よりも、しんのすけは気にした様子もなく僕に話しかけてきた。


「ま、まさか!友達じゃないさ」

「そう!友達なんかじゃないぞ。それ以上の関係だぞ。ねぇ風間君」

「そうそう。お互いの体のホクロの数まで知り尽くして…じゃない!」

いつもそうだ。しんのすけのペースに引き込まされて、僕がどれだけのものを今まで犠牲にしてきたのだろうか。

(…違う。最終的に選んだのは僕じゃないか。いや、それでも…しんのすけが悪いんだ。僕のことなんかほっておいてくれたら良いのに)


「風間君、ネネちゃん達もいるんだぞ?今からご飯いかない?」

「…っ放せよ!お前と遊んでる暇なんて僕にはないんだ」

掴まれた腕を振り解くと、僕は自分の中で最低だと思う言葉を何度だって選んでしまう。これが最初でも最後でもない。

(僕だって本当はネネちゃんやマサオ君ボーちゃん。そして、しんのすけ。お前の傍にいたいさ。でも駄目なんだ)

僕は、お前みたいに遊んでばかりいられない。ママを喜ばせたい、パパのようにエリートになりたいんだ。


「…お勉強ばっかりしてると疲れちゃうでしょ」

「しんのすけ」

しんのすけはポケットから取り出した飴を僕の手に握らせると「またね」と、優しい優しい笑みを浮かべ呟くのだ。

(ああ、そうだよ。優しいお前は僕の言葉に怒ったことなど一度もない。昔からそうだ)



「風間君、さっきの男の子…素敵ね」

「しんのすけ?…あいつは駄目だよ」

「やっぱり彼女がいるのかしら?」

「…どうかな。でも、あいつだけは…ごめん。紹介できないんだ」

残念そうに顔を曇らせる少女を前にしても風間はどうして駄目など言ってしまったのかそんな自分に一番、嫌悪していた

駄目なのは僕じゃないか。自分から、しんのすけを手放したくせに、誰かにしんのすけを奪われるのだけは我慢ならないなんて。

(なぁ、しんのすけ。お前のその平等の優しさで僕がどれだけ救われ、どれだけ傷ついていたか…知っているのか?)


お前の「友人」としての愛情が僕には耐えられないのだと、頭には先ほどまで叩き込まれていた数式だけが何度も繰り返されている。

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