短編2[BL]

□しん+ひま
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しん+ひま



我儘なお姫様に、愛を

ひまわりが嘘や隠しごとをするとき、必ずと言っていいほど自分の髪をクルクルと人差し指で弄ぶ癖を知っている。

そもそも何十年も、一緒の家で同じ時間を過ごしてきたのだ。ひまの癖に限らず、知らない事の方が少ないのに。

(今更、嘘や俺に言えないようなことを隠したところで、どうなるわけでもないんだぞ)


「…ひま、帰りが遅いけど誰と会ってたの?」

「し、しんのすけには関係ないでしょ!お兄ちゃん面しないでよ」

「…お兄ちゃんだから仕方ないでしょ?言いたくないなら別にいいけど」

頻繁に携帯が鳴ってることも誰かと連絡を取り合っていることも帰りが遅いのも大体は見当がつく

別に彼氏ができたって俺とひまわりの関係が崩れるわけでもないのに、どうしてひまわりはそんなに隠したがるのだろうか。

(まぁ、父ちゃんは驚きのあまり卒倒しちゃうかもしれないけど)

「怒ったの?」

「…なんで?」


そろそろシロの散歩にでも行こうかと、リードと携帯を手にひまわりの横を通り過ぎたとき服の裾をぎゅうと、けれど控えめな強さで掴まれた。

別に言いたくないなら問い詰めることもしない。だが、ひまわりには無言で立ち去ろうとした俺が不機嫌に見えてしまったのだろう。

「だって、しんのすけ…無視するから」

「…無視はしてないでしょ。シロのお散歩に行くだけだぞ」

「ほんとう?」

「俺がひまに嘘を吐いたことがある?」


そう言えば、ひまの可愛い顔が一瞬だけ、涙を堪えたような悲しい顔になってしまう。

別に責めているわけではないのだが、どうも最近のひまわりは俺の言葉一つを極端に受け止めるようになってしまった。


「ひま。別に俺、ひまのこと怒ってもないし秘密くらいあってもいいと思うんだぞ」

「…しんのすけも、ひまに隠してることや言えないことがあるの?」

「俺だってそれくらいあるぞ」

ひまわりの瞳が揺れ動く様子を見てしんのすけは、こんなにも可愛い少女が妹だったことを改めて再認識していた。

大きな、その瞳なんか零れ落ちてしまうんじゃないかと心配になるくらいキラキラと自分だけを見上げてくる。

(誰に似たのか肌も白くて、触れたくなってしまう唇も魅力的。これで彼氏が居ない方がおかしいって話しだぞ。うん。)


「…しんのすけ…は…彼女、いるの?」

「しんのすけじゃなくて、お兄ちゃんでしょ。…いるぞ」

「…好きなの?」

「好きじゃなきゃ付き合わないでしょ。でも別に隠してたわけじゃないぞ、俺」

「…別れて!」

「え?ちょ、ひま?ひまわりさーん?」


本気で怒っているのか拗ねているのか両頬を膨らませて黙ってしまうところが、ひまわりの独占欲の現れなのかもしれない。

自分のことは棚に上げて、俺に彼女ができるのがどうにも不満らしい。こんな、やりとりが今までに何十回もあったくらいだ。

だからこんなとき、どうしたら機嫌が良くなるか、考えなくても知っている。


「ひま、明日一緒にお出かけする?」

「…ふたりだけで?」

「そうだぞ。嫌なら、ネネちゃん達も呼ぶ?」

「だ、駄目!しんのすけと…ひまだけで行くの」


やっと振り返ってくれたひまわりは俺の胸に飛び込んでくると、それから数秒して、ご機嫌な鼻歌が耳に届いた。

ああ、可愛い。可愛い、世界で一番、面倒で。でもやっぱり可愛い俺の妹。


end.

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