短編2[BL]

□潜む愛
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「ネネちゃん、今年も俺にはチョコがないの?」

「…ネネから貰わなくても沢山もらう予定でしょ、しんちゃん」

やっぱり寝坊して遅刻してきたしんちゃんは先生の小言が終わると、友人と話していたネネの手を強引に繋ぎながらも、歩く速度はネネに合わせてくれている。

そんな些細なことがなによりも嬉しくて、少しだけ悔しいのだ。


「沢山って、酷いぞ。本命以外は受け取ってないつもりだったんだけど」

「…嘘。しんちゃん誰にでも優しくするくせに」

「ネネちゃん俺、好きな子がいるんだぞ」

「…知ってるわよ」


(ななこおねいさんでしょう。そんなこと昔から、失恋と同時に聞いたわよ。あんな惨めな気分、またしんちゃんは繰り返すつもりなのね)

ひどいわ。でも好きなのよ。ひどい男に掴まってしまったと思うのに、今年も用意してしまってる手作りチョコが憎くて仕方ない。

本当は毎年、誰よりも先にチョコをあげてるのよ。しんちゃんは誰かも分からずに受け取っているのでしょうけれどね。


「もう離して、しんちゃん。友達と話してたのよ。次の授業もあるし」

「…やっぱり俺、嫌われてるみたいなんだぞ」

「しんちゃんが?」

ネネが少し怒ってみせるとしんちゃんは途端に手を繋ぐのが下手になって階段の上で立ち竦む。

ひやりとした廊下の冷たさに遮断されたような誰もいない空間はきっと幻影なのだ。白昼夢みたいに幻に違いない。

だって、こんなにも切ない顔でネネを見るしんちゃんの瞳がまるで、恋をしているネネと同じ顔なんだもん。

そんなことがあるわけないのに。こんなことなら覚めても良かったと思う位の悪夢のほうが随分、マシだと思うの。


「しんちゃんが嫌われることなんて、ないわ」

「そんなことないぞ。好きな子だけは振り向いてくれないでしょ」

「しんちゃんらしくないわ…そんな弱気になって、どうしたの?」

「…どうもしないぞ。ごめんね、感情的になって。授業はじまるぞ」


ななこおねいさんと何かあったの?それとも嫌なことでもあった?聞きたい事も伝えたい事も沢山あったのに。

しんちゃんは次の授業をサボるつもりで、たぶん仮病をつかって休むつもりだろう保健室に向かって足を進ませている。

その背中に、何も言葉が浮かんでこなかったのは授業開始の時刻の迫ったことを知らせる予鈴が廊下に響いたからだ。

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