企画べや!
□しんあい
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しんあい
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まだ、寒さの残る青い空には白い雲が一本の筋を引いて風に流れていた。
昨日は各地で大雪が降っていて、黒磯の迎えを待っているときに事故に合ってしまったのだ。
怪我をしたその時と、意識が回復した、しばらくあとのことはよく覚えていない。
けれど目が覚めて最初に見た景色は広い個室と病院の匂い。そしてしん様の泣きそうな顔だった
「…しん、様」
「あいちゃん!」
「…生きているのですね、あいは」
車が衝突してきて奇跡的に助かったことを知ったときは嬉しさと、そしていまの状況に不安を覚えていた。
折れてしまった手足、そして問題はお母様やお父様が、あいの顔を直視することもなくただ目を逸らしてしまう程の傷のついた顔。
黒磯はあいに何も言わないけれど鏡を見なくても、あいの顔がどうなっているのかは大体の予想がついていた。
(…そこまで自分の容貌に、うぬぼれていたわけでも無いけれど…でもきっと醜い顔になってしまったのだわ)
包帯に隠された顔の半分を指先で辿ろうとしたとき、ちょうど病室を叩く音がした。
「あいちゃん、今日はネネちゃんからお見舞いがあるぞ」
「ネネちゃんが、あいに?何かしら」
「うさぎの人形。あいちゃんの為に手作りしたらしいぞ。ほい」
「まぁ、可愛いですわ。今度、ネネちゃんにお礼をしなくてはいけませんわね。しん様」
「あいちゃんが元気に退院するのが一番だと思うぞ。俺とのデートの約束も溜まってるでしょ」
「…しん様」
悲しいときは俺に弱音を吐いてもいいぞ、といつものように優しい笑顔を与えてくれる、あいの大切な人。
しん様が、あいの顔だけを好きになってくれたとは思ってはいない。
昔から異性を虜にさせる、あいの笑顔も容姿にも家柄にさえ興味を示さなかったような人だ。
(…けれど醜くなってしまった自分をこれから先も愛してくれるのだろうか)
「しん様は平気ですの?あいが醜くなっても」
「あいちゃんは何も変わらないぞ」
「…嘘、ですわ。みんな、あいのことちゃんと見ませんの」
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