企画べや!
□しんあい
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「美人だ」「綺麗だ」と美しい言葉ばかりで褒められていた外見は、今は見ることさえできなくなってしまっている。
握りしめていた、うさぎの人形がベットから落ちると、しん様はそれを静かに拾ってあいの両手に収めた。
「きっと、しん様も…あいのことが重荷になってしまうんですわ」
「あいちゃんは俺がこんなことで離れていくと思ってるの?」
「…それは」
「あいちゃんは俺の外見だけを好きになったの?違うでしょ」
「でも、っ…しん様の隣に…あいは相応しくないですわ」
ボロボロと涙と悲しみだけが痛みと一緒に押し寄せて目を閉じると、しん様がじっと見下ろしてくるのがわかった。
入院してから今まで何度も夢をみて。それはどれも悪夢だ。しん様が知らない女性を選んで去ってしまう嫌な夢。
でも、きっとこれから現実になってしまうだろう恐怖にいつも眠れなくて、いっそ死んでしまいたいときがある。
そんなことを口にしてしまってから、静かな病室に互いの呼吸だけが存在していた。
「俺は、あいちゃんの全部が好きなんだぞ」
「…しん様、」
「あいちゃんが、どんな姿になっても傍にいる。約束するぞ」
「それでも、…それでも、あいは不安で…しん様が好きなのに」
好きな人の隣には、いつまでも綺麗な自分で居たかった。どんな女性にも負けないようなそんな恋人でありたかった。
(しん様は、そんな下らないプライド捨ててしまえばいいと思っているのでしょうけれど、あいには…それだけが誇りだったのですわ)
そもそもどうして恋人になれたかなんて分からない。ずっと好きだと伝えていたらやっと振り向いてくれたような人だ。
もしかしたら同情ではないか?あいの好きになった人は誰かを傷つけることが苦手だから。
「…だったら、俺もあいちゃんと同じになれば信じてくれるの?」
「しん、様?」
しんのすけは、いつもの調子で微笑むと傍にあった引出しから果物用のナイフを取り出した。
一体、何をするのかと、そのまま眺めていたら笑顔のまま一気に自分の顔をその手にしたナイフで引き裂こうとしたのだ
あいの目の前で今、大切な人が顔を傷つけるだけではなくて、命までも断とうとしている。
「や、めて…!」
ナイフは、しんのすけの手から落ちると硬い音をたて床に落ち、あいは呆然としながらもしんのすけの背中に抱きついた
もしも、あいが少しでも止めるのが遅ければ本当に、しんのすけは自身の顔をナイフで傷つけようとしたのだろう。
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