短編2[BL]
□黒磯
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黒磯+しんあい
失恋タイム
「難しいものですね、相手に自分の気持ちを伝えるということは」
「ほうほう。黒磯さんでも難しいことなんてあるんだ。知らなかったぞ」
「…沢山、ありますよ。恋なんて分野はとくに苦手ですから」
黒磯の言葉に、しんのすけは含み笑いを浮かべながら手元にあった高級カップを玩具のように両手で包み込む。
美味しい紅茶の入れ方を教わりに、しんのすけが黒磯を訪れたのは何も今日が初めてのことではなかった。
けれど、こんな恋の話題になったのは多分、最初で最後になるのかもしれない。
「黒磯さんにそう想われてる人は幸せ者だぞ。恋の相談なら泥舟に乗ったつもりで任せていいぞ」
「…そうですか?でも、大船に乗ったつもりで、なら任せますよ」
もう何十年も溜めこんでいる感情に嘘をつき、陽気に笑うしんのすけの笑顔を黒磯は滲んだ絵の具のように眺めていた。
自分の気持ちなど一生伝えるわけにはいかないけれど。少しくらいは気づいてほしいと欲望だけが苛立たせる。
(なんて浅はかなことを考えてしまうのは私が未熟だからだ)
「黒磯さんも、たまには仕事より恋を選んでもいいと思うぞ?」
「…しかし、私にはお嬢様をガードするという務めがあります」
「でも、あいちゃんをガードする役目は俺にもできるでしょ」
「それは、」
じわり、と浮き出た汗を言葉のように拭えなかった。年甲斐も無く、その先の言葉を聞きたくないと思ったからだ。
しんのすけと話している間にセットしていたポットからは湯気が立ち込めている。温めたティーポットもちょうどいい。
「俺はあいちゃんの恋人なんだから、いつだって、お守りするぞ」
「…しんのすけ様は、私の仕事まで奪ってしまうのですか」
「え?」
「いえ。ああ、違います。最初はジャンピングをしなくては」
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