短編2[BL]
□蜃気楼
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「これからもしんちゃんはネネに嘘をつくのね」
「…ネネちゃん」
しんちゃんが言うように相手を傷つけない為の嘘もあるのは理解出来る。
けれどだからと言ってそれが全て許せることばかりではないと思うのだ。
「しんちゃんなんか嫌い。しんちゃんの嘘はネネを傷つけるだけよ」
「ネネちゃん。俺には…ネネちゃんだけなんだぞ」
その言葉に何度も頷いてきたけれど、もう限界だったのだ。心が痛い。
屋上の扉を開いて出て行こうとしたネネにしんちゃんはゆっくりと立ち上がる。
「あ、」
と思った瞬間には、しんちゃんの赤い携帯が半分に折れていた。
「なに、して!」
「携帯がなければ安心するでしょ?」
「だからって…どうして自分の携帯を壊したの。そんなこと頼んでないもん」
「これしか許してもらえる方法が分からなかったんだぞ。ごめんね。ネネちゃん」
大きく広げられた両腕。思わず飛び込んでしまってから涙が溢れた。
そうだ、しんちゃんは昔から女性に甘くて、だらしないけれど。
それでも…ネネだけが彼にとって特別だった。
「しんちゃん、もっと強く抱きしめて。ネネが逃げないように」
「当たり前でしょ。もう泣いても逃がしてあげるつもりはないんだぞ」
そう微笑んだ独占欲と返ってきたのは機嫌よさげな鼻歌だけだった。
end.