短編2[BL]

□蜃気楼
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『あの、野原君の電話じゃないんですか?』

「…そ、れは」

まだ耳の奥で消えない甘い声に、しんちゃんはネネから携帯を奪った。

それから何もなかったように電源ボタンを押すとネネを抱き寄せる。


「今のは昨日、打ち上げで知り合った女の子だぞ」

「…、そう」

「先輩の友達みたいで断れなかった」

「つまりそれは…ネネに嘘をついたってこと」

「だって、言ったらネネちゃん怒るでしょ。でも黙っててごめんね」

ネネだって言ってくれれば、こんなこと思わなかった。

しんちゃんが人気者だってことは自分が一番、理解していたからだ。

だから今更、彼のメアドに知らない名前があっても気にはしない。


「それでも平気な顔で嘘をつかれるのは辛いわ」

「言ったら怒らなかったの?違うでしょ。絶対、怒るでしょ」

だから黙って行った、そう言われて更に気持ちが不安定になっていく。


「…そうやって、しんちゃんは今までもネネを騙して来たの?」

「これが初めてだぞ」

「…嘘。信じない」

しんちゃんは女性にモテるし、今みたいに携帯の番号を教えてしまう。

ネネが好きじゃないんだと言ったら、しんちゃんの表情も険しくなった。

「…なんで、俺を信じてくれないの?好きなのはネネちゃんだけだぞ」

「しんちゃんが嘘をつくから。ネネはいつも正直に話しているのに」

「それでも、知らなくていい嘘もあるでしょ」

「会ってすぐの女の子に番号を教えることはネネが知らなくていい嘘なの?」

しんちゃんからもらった、お揃いのストラップ。

それをネネは自分の携帯から引き千切り、屋上から地面に投げつけた。

キラッと、一瞬だけ太陽の光に反射して消えてしまった大切な宝物。

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