短編2[BL]

□勿忘草の途中
1ページ/5ページ

しんあい



5月、まだ寒いのか温かいのか分からない季節。

あいちゃんは事故にあった。俺のことは忘れてしまったらしい。


勿忘草の途中


「あなたは誰?」

「…しんのすけ」

俺の名前は野原しんのすけ。もう一度、繰り返す。広い病室の一室。

あいちゃんは、俺の記憶だけ何もかも全て失ってしまったらしい。


「素敵な名前」

「…、まぁね」

「しんちゃんは…あいのお友達?貴方のことだけ思い出せないの」

少し困ったように俺を見つめるあいちゃんに俺は優しく微笑んだ。

あいちゃんに、しんちゃんと呼ばれるのは何だかなれないものだ。


「そうだわ。あいは、いつも貴方のことをなんて呼んでいたの?」

「…しん様」

「しん様?」

「…嘘だぞ」

信じられない、って顔をするあいちゃんに俺はゴメンネと呟いた。

いつも俺を好きだと言っていた彼女はもういない。これは現実だ。


「しんちゃん大丈夫?まだ…しんちゃんの記憶だけ戻らないのね」

「ネネちゃん」

病室の扉を閉め、廊下で待っていてくれた皆に目線だけを走らせた。

マサオくんはお見舞いの花束を黒磯さんに渡して困った顔をした。


「しんのすけ…お前…あんまり気にするなよな」

「風間くん」

.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ