短編2[BL]

□背徳の蜃気楼
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「おお!すごいぞ!ここから俺の家が見えるぞ」

「そんなに動くな、しんのすけ!揺れるだろが」


それから数分

揺れるゴンドラにオレは、しんのすけと向かい合わせて座った。


「しんのすけ」

「……なぁに」


「しんのすけ」

「聞えてるぞ」


しんのすけ、もう一度繰り返したオレにお前は、小さな息を零す。

笑っているのか泣いているのか怒っているのか、多分…前者だろう。


「繋ごうぜ」

「…手を?」


「ああ、ここなら誰にも邪魔されないだろ」


自分の頭のすぐ後ろ、ガラスの向こうには先に上った観覧車が見える。

けれど、この空間は別世界だ。もう白い目で見られることもない。



「…好きだぜ」

「知ってるぞ」


手を握りオレ達は頂上に到着した寸前にじゃれあうようなキスをした。


「ん、ん、…ぁ」

息継ぎのように離れて、でもまたすぐにオレは深く唇を合わせる。

柔らかな舌が結んだ口をこじ開け荒っぽくしんのすけの舌を探る。


くすぐるように触れて今度は顎の上側をこするように角度を変えた。


「好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ…しんのすけだけでいい」

「…河村く、」


あの頃、まだオレもお前もガキで、こうなるなんて予想外だったのだ。

けれど、気付いてしまったんだ。お前じゃないと駄目なんだって。


「しんのすけ呼べよオレの名前…お前だけがオレを幸せにするんだぜ」

「…っ河村く…河村くん…河…っ村く…やすお」



悲しくて切なくて、

でもたまらない程にコイツが愛しくて、ただ黙って手を握り締めた。


背徳の蜃気楼
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