短編2[BL]

□背徳の蜃気楼
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「…くそ!」

「河村く、」


強引に、しんのすけの手を引っ張って観覧車の列に並んだ。

待ち時間は30分


「無理はよくないぞ、河村くん。俺そこまで我儘じゃないんだけど」

「オレが乗りたいんだよ。乗ろうぜ、しんのすけ…せっかくなんだ」


周りのカップルみたいに手を繋いで抱しめたい。

けれど、恋人同士しか並んでいないこの列に男2人で並んでいる。


それだけで今の現状は奇異であるのだから、これ以上は我慢比べだ。

そう言ったらしんのすけは少し考えて「怖い?」と言ったのだ。


「…怖くねぇよ」

「俺は…怖いぞ」


「観覧車がか?」

と、溜息に似た声で呟いた。その途端、しんのすけに手を握られる。


「お前っ!」

こんな所でふざけるなと睨み付けたら、しんのすけは少しだけ笑った。

「冗談だぞ」

「本当かよ」


離したけれど、本当は本気で手を繋ごうとしたのではないかと思った。

しんのすけはオレほどには男同士ということにこだわっていない。


今だって、もしオレがいいと言えばこいつは手を握ってくるだろう。

しんのすけはそういう所で人の目というものを全く気にしなかった。


「昔から…そんなとこがオレは羨ましかったんだぜ、しんのすけ」

「ほうほう、それで俺を好きになったんだね」


「自意識過剰」

「自惚れがなきゃ恋なんてできないでしょ」


しんのすけの優しい笑顔。抱しめたい。こんなにも愛しいのに。

オレ達は人前で手を繋ぐことすらまだ許されないでいたのだ。

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