短編[BL]
□拍手文SS
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<しんあい>
待ち合わせの時刻から10分も過ぎて遅刻してしまった。
付き合って、初めてのデートに。何て言い訳をしたらいいのか、いや。言い訳なんてするべきじゃない。
「っあー!」
信号が青から赤へ。立ち往生していると、普段は目につかないだろう小さな花屋が視界を遮った。
遅刻の理由に花でも手渡すべきだろうか。
気の利いた言葉はおろか花束を用意するなんて真似。そもそも、あいちゃんなら何度も経験してそうだ。
あいちゃんくらい可愛ければ今まで色んな男が花束方手にアプローチをかけてきたに違いない。
だが俺に、そんな豪華な花束を買える余裕などあるわけもなく。
「…230円」
ポケットを探ると、昨日コンビニに行ったときのおつりが入っていた。寝坊して急いで家を出たものだから財布を忘れてしまっていたのだ。
家に戻るよりも、先に待ち合わせ場所で待つ彼女に会わなければ、と思って走ってきたのだが今はそれを少し後悔した。
財布の中身があれば小さくても少しくらいは花束らしきものは買えたかもしれないのに。
「遅れて、ごめんね。あいちゃん、これ…言い訳にしかならないけど」
「しん様?」
「…次は花束を用意するぞ。あいちゃんに似合う薔薇の花束」
今日は一輪しか買えなかったけれど。しかも初めての贈り物に、たった一輪の花だ。
それでもあいちゃんはとても綺麗に笑って「しん様がくれるものは何でも嬉しいですわ」なんて涙を零すから俺も一緒に泣いてしまったんだぞ。
end.